「無理に会う必要ないよ。ベッドの部屋に居てもいいし、工房に顔出しても」

翔は心配そうに眉を下げた。
しかし雅紀は顔を上げて翔を見た。

「……いや、大丈夫。俺も久しぶりに先生の顔見たいかな」

そうだ。ビビるな、俺!
先生に聞きたいことがたくさんあるんだ。
なにより、にのをすぐにでも返してくれって言わないと!

にのの身体はそのまま強制的に献体状態となり、未だに戻ってくる気配もない。
今どうなっているのか、冷凍保存でもされているのか、考えただけで雅紀は目眩がする。寂しがり屋のにのが、ひとりぼっちなのではないかと、心がギシギシ痛んでしかたない。
どうしても、どうしても返してもらわなければ。俺は一歩も前に進めない。

もちろん、翔も何度もお願いしている。
しかし、なにしろ極秘扱いらしく、もはや三浦医師にもどうする事も出来ないという。何を聞いても「申し訳ない」としか答えてもらえないのが現状だ。

まだ週末まで日があるというのに、拳を握って熱くなる雅紀。そこへ、アンドロイドが工房から帰ってきた。買い物をしてきたらしく、手には大きな袋を提げていた。

「マサキさま、お願いがあります」

アンドロイドがキレイな茶色の瞳で訴えてくる。にのと同じ、とても澄んだ瞳。雅紀はやっぱりドギマギしてしまう。

「えっ、え、なに?」
「餃子の作り方を教えてくださいな」
「餃子??」

工房で調整してもらった後、智と潤に「どーしても食べたい!」と頼まれたらしい。潤が熱っぽく、この子にお願いしている様子が目に浮かんだ。

「だって、餃子のレシピはココに入ってるんでしょ?」

雅紀は人差し指でアンドロイドの頭をちょんとつついた。まるで、にの本人にするように。そうしてから、自分で自分のその仕草にちょっと驚く。

「普通のはありますけど、マサキさまの餃子がいいって頼まれてまして…。ジュンさまもよくわからないそうです」
「あー…、なるほどね」
「ダメ…ですか?」

小首をかしげて手を合わせるアンドロイド。
上目遣いがにのそっくりだ。

あぁ、ダメだ。俺は断れない。
もう一緒に作りたくて仕方なくなってる。
にのじゃないってわかってるのに。

雅紀は無言で、アンドロイドが持っていた重そうな袋をその手から取って、台所へ向かう。
アンドロイドは「ありがとうございます!」と声を弾ませ、その背中を追うのだった。