来客用ベッドでそのままふて寝を決めこむ。
目を閉じていると、さっきのアンドロイドのつるりとした唇の感触が蘇ってきて、ちょっとの間ぽーっとしてしまう自分にイライラする。

「うがー!」

頭から布団を被り、思い出すまいと頭を振った。すると、今度は翔に笑いかけるあの子の可愛い笑顔が浮かんできた。それを見つめる翔の優しい眼差し。
もしかしてあの子は翔にも抱きついたり、なんならキスしたりしてる…とか?

「うががーー!」

たまらず雅紀は布団をはねのけると、今度はバスルームに飛び込んだ。

頭を冷やそう。俺はどうかしているんだ。

冷たいシャワーにも歯を食いしばって耐え、水温が上がるのをじっと待つ。
冷たい水は、子どもの頃ににのと二人でした水遊びを思い出させた。夏の暑い盛り、セミの鳴く公園で水道の水をかけ合って騒いだ。太陽の光を浴びて光る水滴の向こうに、はしゃぐにのの眩しい笑顔…。

いつの間にか温かくなっていたシャワーの下で、雅紀は泣いていた。

今。
今、会いたい。すぐに会いたい。

泣きながらガシガシ頭を洗った。
涙がシャンプーの泡とともに、排水口に吸い込まれていった。

ぐったりしてバスルームから出ると、ドアのすぐ前にあの子が立っていた。手にバスタオルを持っている。

「うわあ!!」
「マサキさま、お拭きしましょうか」
「いいいや、いい!自分でできるからっ」

雅紀は慌てて身体を拭いてぱんつを履いた。機械相手に恥ずかしがるのもヘンだと思うが、身体が勝手に後ろを向いてしまう。
と、頭にふわりとタオルが掛けられた。
目の前にアンドロイドが回り込み、懸命に背伸びして雅紀の頭に手を伸ばしている。

「では、髪の毛を乾かしますね」

そう言って小さな手で、こしこしと拭き始めた。ちょっとより目になっている。
その様子があまりにも可愛くて、雅紀は頭の位置を低くしてされるがままになった。
そして誘われて椅子に座り、ドライヤーをかけてもらった。

「いつもはさ…」
「はい?」
「俺がにのの髪の毛、乾かしてやってたの」

放っておくと自分じゃ全然拭かないからさ…と、雅紀は子猫のように甘えるにのの柔らかな髪の毛を思い出して、ぽつぽつ話した。
ドライヤーの音に邪魔されて、あの子に聞こえているのだろうか。
そう思った時、アンドロイドの小さな手が、雅紀の頭を優しく撫でてくれた。
ただ、髪の毛を整えていただけなのかもしれない。けれど、さっきまでのモヤモヤが消えて、雅紀は久しぶりにゆったりとした気持ちになれたのだった。