にのと雅紀。
幼なじみの二人は、小さい頃からどこに行くのも一緒。片方がいないと、それだけで心配されるような二人。雅紀自身、にのを「運命の相手」だと思っているくらいだ。

けれど、決してこんなキスをするような間柄ではなかった。どんなに身体が密着しても、そんなことにはならなかった。ふざけて触れた事はあったかもしれないが。

それは雅紀が細心の注意を払っていたから。
自分のにのに対する気持ちが、ただの幼なじみに向けるものではナイと気がついた時、雅紀は戸惑った。そんな事があるだろうか?
気の迷いだとか、思春期にありがちな思い込みではないかと、自分の気持ちを確認すればするほど、鮮明になっていく愛情。

しかし、この時代になっても、まだまだ市民権を完全には得られていない感情。

「誰も幸せになれない」

そう思った雅紀は自分の想いを封印したのだった。そうしなければ暴走しそうな自分が怖かったのかもしれない。

だから、アンドロイドとはいえ、にのからキスをされるなんて思ってもみなかった。
明らかに人のソレとは違う、つるりとした乾いた唇。それでも目の前に迫る茶色の瞳から目が離せない。

「…こういうのは、アリ?」

合わされた唇の隙間から、にのの声が漏れた。
その声に我に返って、雅紀はとっさに突き放そうとした。しかし、にのの腕は雅紀の首にしっかり絡みついていて離れない。

「ダメなの?」

小首をかしげるにのに、頭の中が沸騰する。

「ダダダダメ、ダメだろっ」
「なんで?にのが男だから?それともアンドロイドだから?」
「えっ…」
「そういう用途のアンドロイドもいるよ?頼めばあの工房で、その機能つけてもらえるんじゃないかな」
「は、はあ!?」

雅紀の沸騰した脳ミソが大噴火した。
そんなアンドロイドがいる事は知ってるよ。けど、違うだろ、そういう事じゃないんだよ!何を言ってるんだこの子は。

やっぱりにのじゃない。

雅紀は絡みつくアンドロイドの腕を強く振りほどき、立ち上がった。そして、潤はいったい何をこの子に入力しているんだと、心の中で八つ当たりした。
アンドロイドはそんな雅紀を見上げて、口をつぐんだ。茶色の瞳が寂しそうに見えたのは、気のせいだろうか。