工房を後にして、雅紀は翔の診療所に帰る。今度は少しばかり急ぎ足。
結局、あのアンドロイドを元に戻すことは断ったのだった。にの、によく似たあの顔を見るのは複雑な気持ちになるのだが、だからといって見られなくなるのはひどく寂しいようにも思えたから。
本音を言えば、もう今すぐにでも会いたい。
本人ではないとわかっていても、心が急く雅紀だった。

玄関のドアを開けると、振り返ったアンドロイドと目が合って、雅紀の心臓がドクンと大きな音をたてた。

「おかえりなさいませ、マサキさま」

にのそっくりな笑顔。だけど、違和感。
高なった心臓が胃の辺りまで沈みこんだような気がする。雅紀は小声で「…ただいま」とようやく返した。

見れば、アンドロイドは大量の洗濯物を丁寧にたたんで、バスタオルの上にならべている所だった。
見覚えのあるたたみ方。これも潤が後付けしたのだろうか?思わず近づき、たたまれたシャツを手に取った。

「それはマサキさまのですよね。お部屋にお持ちするのでココに乗せてください」

アンドロイドはそう言って、大きなバスタオルを指さす。みんな包んで一度に運ぶのだと言う。これもにのと同じだ。

「手伝うよ」

考える前に言葉が先に口から出てしまった。赤くなる雅紀に、アンドロイドは「ありがとうございます」と笑顔で応えた。

サンタクロースがプレゼントを配るように、二人で洗濯物をあちこちにしまって歩く。
最後に大量のタオルを袋替わりのバスタオルから取り出そうとして、うっかりばら撒いてしまった。

「うわっ、ごめんごめん」

雅紀が慌てて落ちたタオルを拾おうとしゃがみ込んだその時。

「ごめんは一回だよ、まーくん」

突然聞き馴染んだセリフが降ってきた。ハッと隣にいるアンドロイドを見上げる。

「…にの…」
「二回言うとウソっぽくなるってば」

にのは同じようにしゃがんで、タオルを拾いだした。もっと声が聞きたくて、雅紀は思わずにのの腕を取って引き寄せた。
見つめた茶色の瞳が深い色をたたえている。

「あの、さ。喋り方違うよね、なんで?」
「どっちが好き?」
「そそそりゃ、今の…」

言葉が遮られる。続けられなかった。
なぜならキスされていたから。
にのが腕を首に絡めて唇を合わせてきた。

「!!?」

雅紀は思考停止状態に陥り、その場に固まったまま動けなかった。

ナニガオキタ?