「どうやってって…」
「だってアレ、すごく高いんでしょ!どこで買ったの?大丈夫なの、なんかヤバい事してないよね??」
「別に盗んだりしてねぇーし!」

雅紀の追求に智はぶんぶん首を振った。眉が八の字だ。雅紀は疑い深そうな目で、そんな智の顔を覗き込む。それを見てアジフライを食べていた潤が笑いだした。

「さすがにドロボーはしないよ。買ったの、智の古い友達から格安で!翔さんがぽんってお金出してくれたんだ」
「…友達じゃねぇーや」

格安で?あんな高価なものを?
信じられないという表情の雅紀に、智は「やれやれ…」とため息をついて教えてくれた。

あの子の元持ち主は、本郷博士。
ロボット工学のスペシャリストで、その天才的発想と手法により、一時期脚光を浴びていたという。

「え、リーダーってそんなスゴい人と友達だったの?」

雅紀とにのは、智を「リーダー」と呼んでいた。彼がこの仲間の中で最年長だったからだ。「智」と呼び捨てにするのは一番年下の潤だけで、けれどその呼び方にはとびっきりの愛情がこめられている。

「昔、研究所で一緒だったんだよ。別に友達ってほどじゃない。譲られたってゆーか、押しつけられたってゆーか…。あの値段で置いてくなんて、なんか訳アリなアンドロイドなんだろ」

智の過去はよく知らない。あまり話したがらないので、みんなも特に聞かないでいる。
今ひとつ歯切れが悪い智にかわって、潤が大きな目をくるくるさせて口を挟んだ。

「あの博士、ちょっとヤバいんでしょ?なんて言うんだっけ…マッド…マッドサイエンティスト?」
「うーん、変わり者には違いないね。なに考えてんだかわかんねぇんだよなぁ、あいつ」

少しばかり「神の領域」に手を出したとか?なんとかで、今はほとんど表舞台から消えていた本郷博士。それが、突然この工房にやってきて、あのアンドロイドを置いていったのだという。
なんのためにそんな事をしたのだろうか。目的がわからない。そもそも手を加えてよかったのか。
雅紀は不安な気持ちを口にした。

「高かろうが安かろうが、買ったんだから俺たちがどうしようと本郷には関係ない。翔ちゃんと相談してにのっぽく作り替えたんだ。けど、雅紀がイヤなら元に戻すよ」

智にそう言われて、雅紀の目にちょっと儚げなにのの顔が浮かんだ。そしてそれは、あの真っ白なアンドロイドと重なる。くるりと口角の上がったあの唇が「まーくん」と呼んだのを思い出して、胸の奥がギュッと痛んだ。