昼過ぎに帰ってきた翔は、にのが作ったアジフライに感動の声をあげた。

「うめえ!なにこれ、雅紀のと同じじゃん」
「ありがとうございます。まだまだですけど」
「智くんと潤にも持ってってやりたいな。まだフライ残ってる?」

頷くにのが台所に行きかけたところで、翔のケータイが鳴った。簡単なやり取りの後、翔はにのに声をかけた。

「悪い、仕事が入った。先にこっち手伝ってもらえる?」

堂々と普通の病院に駆け込めない裏社会の患者からの依頼。裏口から続く診察室に向かう翔の後ろをにのがついていく。
翔が使っていた医療用ロボットより、断然使い勝手がいいので、たった数日でにのは翔の右腕と化していた。二人は使用する薬品や器具の話をテキパキこなし、足早に診察室に消えていった。

そんな様子を黙って見送っていた雅紀は、眉間にシワを寄せて大きなため息をついた。

俺のにのは、仕事じゃない時は必ずと言っていいほど俺の隣にいた。飄々としてるようで、実は寂しがり屋なんだ。可愛い口でヘリクツこねるにのを、何時間だって腕の中に留めておけたのに。

それが今は、翔といるほうが多い。
雅紀は翔のことをとても尊敬しているし、信頼もしている。とても大事な仲間だが、にのそっくりなあの子がぴっとりくっついているのを見るのは、やっぱりおもしろくない。

「だから、にのじゃないんだって…」

そう独り言ちるも、モヤモヤは消えない。そんな自分にうんざりして頭を掻きむしる。
診察室からは野太い男のドラ声と翔のたしなめるような声が響いてきた。きっと撃たれたか刺されたかしたヤクザだろう。
あの子は大丈夫だろうか。怖がらないかな。
などと考えてまたもや頭を掻きむしった。

「だーかーらー、違うんだって!」

イライラした雅紀は、たまらずアジフライをそこら辺の紙袋にテキトーに突っ込んで、玄関から飛び出した。

久しぶりの外は眩しかった。
お世辞にも治安がいいとは言えない界隈ではあったけれど、昼下がりの街は眠っているように見えた。