「智くんと潤ががんばって声も合成してくれたんだよ!膨大な量の音声データを入力して繋いで…」
翔の説明も聞こえているのか、雅紀は目の前のアンドロイドに目が釘付け。しかし壁に張りつくように固まっていて、ソレに触れようとはしない。
「ほら、触ってみなって」
翔が雅紀の手を掴んでソレに触れさせようとすると、雅紀が飛び上がって激しく首を振った。
「いやだ、嫌だ!ちが、違うコレは…」
「わかってるよ、別ににのの代わりにしろって事じゃないから!」
「じゃあなんで、こんなことすんの!?」
「おまえだってわかってるんだろ?このままじゃダメだって。そのために…」
雅紀は翔の言葉に耳をふさいで、駄々っ子のように「嫌だいやだ!」と首を振り続ける。パニック状態になった雅紀に、翔は焦った。
「落ち着け、悪かった!わかったから」
なだめようと手を差し出したその時、アンドロイドが先にふわっと雅紀に抱きついた。
「まーくん。大丈夫だよ」
暴れていた雅紀がまた固まって静かになった。アンドロイドの手が優しく背中を撫で、「大丈夫、大丈夫だよ」とにのの声で繰り返す。
じっと抱かれていた雅紀が、ようやく反応して、震える手でアンドロイドに触れた。
冷たそうなつるりとしたボディは、ほんのり温かかった。
「あったかい…」
そして頬に触れてきたアンドロイドの手は、身長の割に少し大きめで、丸まっこく柔らかった。それは様々な作業の為であったのかもしれないが、雅紀ににのの手を思い出させた。
成人男性にしては小さめの、柔らかくてクリームパンみたいに可愛いにのの手。これもあの二人が改造したのだろうか。
「……にの、なの?」
我ながらバカみたいな質問だったと雅紀は思う。なぜなら「にの」であるはずがないとわかっているのだから。けれど聞かずにはいられなかった。
「そうだよ、そんな事もわかんないの?」
小柄なアンドロイドは、迷いもせずにそう答えた。「にの」の声で。「にの」そっくりな茶色の瞳がじっと雅紀を見つめていた。
「わかんないよ、急にどっかいっちゃうんだもの。なんにもわかんない…」
雅紀はそれだけ言うと声を上げて泣き出した。そして、アンドロイドをきつく抱きしめ、苦しそうに身体を震わせた。
そんな雅紀の姿に翔ももらい泣きした。
そんな彼も、もうすでにアンドロイドの「にの」に初めて会ったその場で、ほぼ同じことをしていたのだった。