マスターのお店をあとにして、二人でアパートに帰る。特に言葉も交わさず、ただ手を繋いでまーくんにひっぱられながら、バス停までゆるゆる歩いた。

「俺…」

まーくんがゆっくり口を開いた。
俺は少し早足になって、まーくんにぴっとりくっつき次の言葉を待った。

「やっぱりちょっと焦ってたのかもしんない。ずっと早く大人になりたかった。大人になってかずを早くお嫁さんにしたいって思ってたから」
「およめさん、ねぇ」
「あ、『お嫁さん』は小さい頃!今は違うよ、昔だよ、むかし!」
「えぇ、今はもう違うんだ?」

俺はわざとそう言ってみる。
まーくんは「そうじゃなくて、いや、違わない…?あーもー!わかんなくなるだろ!」と混乱して、空いている片手で頭を掻きむしった。
ちょっと意地悪だったかな。だって「お嫁さん」とか言うんだもん。恥ずいじゃん。

「…俺、全然大人になんかなれてないんだ」

まーくんは立ち止まり、俯いた。

「大人どころか、ただのワガママなガキだよ。だって、だって俺」

繋ぐ手に力がこもる。けれど視線は下を向いたままで、まーくんは言葉を絞り出すように言った。

「かずのことを独り占めしたかったんだよ」

誰もいない世界に二人だけ。
邪魔する者も攻撃するものも、そして慕ってくるものすらいない、二人だけの楽園。

「どうしようもなくガキだよな…」

まーくんのため息みたいな言葉が、ぽろぽろ地面に落ちて雪のように消えていく。真夏の暑さに耐えられないとでも言うように。
でも俺にはその跡さえも愛しい。
だから両手でまーくんの汗ばむ手を強く握って、下から顔を覗き込んだ。

「ガキなのは俺もだよ。だって、お星様にお願いしちゃったくらいだからね!」

神様だとまーくんを盗られそうな気がした事は、ナイショ。
まーくんが俺を見た。そして破顔。
まぶしいくらいの笑顔、と思った次の瞬間、チュッと音を立ててキスされた。

「ちょっ、外…」
「俺、もう無理しないから!心配かけてごめんね。ゆっくり行こ!」

そうだね。
ゆっくりでいい。
でも、俺は知ってるよ、どうせまた無理するに決まってる。だってせっかちさんだからね。

だからずっと見てるよ。
二人ならきっと大丈夫。

夏の風に吹かれて、俺たちはまた歩き出した。







おしまいっ





読んでいただきありがとうございました♡♡
また後ほどあとがきを上げますね