「まーくん、まーくん…」

俺は震える手でまーくんの肩を掴んだまま、うわ言のように名前を呼んでいた。
胸が痛いってどういうこと?
今朝、そんなこと言ってたっけ?
いや、今朝は寝坊してまーくんとろくに話してない…。
いつから?昨日は…。

「おい!泣いてる場合か」

オッサンの声に我に返る。泣いてはいなかったけど。泣くところまで気持ちも理解も届いてはいなかった。俺はオロオロとオッサンを見上げた。

「あの、あの」
「まず、まずは落ち着け。ここで蹲っていたんだよ。そうだ、救急車、救急車呼ぶか!」

オッサンはスマホを取り出し、救急に電話をかけはじめた。その間にもまーくんの様子はますます悪くなってるみたいで、もう返事もできない様子で。
オッサンが大声で話すその横で、俺もスマホを取り出し、もう無我夢中でアイツに電話をかけていた。

「なんの用だ」

いつも通りの不機嫌な声。
その声に思わず涙声になってしまった。

「本郷、助けて!まーくんが、まーくんが大変なんだ…」

話しながら、俺はまーくんの手を握っていた。ただもう、どっかに行ってしまわないように、必死で握りしめていた。返事がないのが怖かった。
迷子になってもまーくんと手を繋いでいれば、なんにも怖くなかったのに。

「泣くな。状況を説明しろ」

俺の動揺など全く意に介さなず、本郷は冷静そのもので、どこまでも本郷らしかった。


オッサンが呼んでくれた救急車が到着して、俺も一緒に乗り込んだ。
そして、本郷の指示通りアイツんちの病院と連絡を取ってもらい、スムーズに運んでもらえてありがたかった。なんでも、受け入れてくれる病院がなかなか見つからなくて、搬送までにすごく時間がかかる事も少なくないんだって。それを知ってマジで震えたよ、俺は。

これで病人は大丈夫なのかってくらいガタガタ揺れる救急車の中で、俺は心配と緊張のあまり、全身に冷や汗をかいていた。