まーくんと大学の前まで行き、俺はそこから理系キャンパスに向かう。別れ際にまーくんが、ブブッと鳴ったケータイを見て言った。

「あー、今日カテキョがお休みになったな」

生徒さんが熱を出したんだって。
昨日まで、ってかついさっきまでレポートにかかりきりで、ようやくパソコンで送信してから、伸びちゃったぶわぶわカップ麺を食べてたまーくん。いや、それが好きなのも知ってるけどさ。

「少しゆっくりしなよって事なんじゃない?」

と、言っておいた。
手を振って別れたあと、ちょっとにやけてしまう。具合悪い生徒さんは可哀想だけど、今日は帰ってからゆっくりできそうだなって思ったんだもん。
台所にまーくんのお母さんが作ってくれたおかずが置いてあったし。
俺は足取り軽く理工学部のB棟へ走った。

今日最後の講義は教養科目の英語で、苦手なせいかいつにも増して眠かった。終わってホッとして荷物をまとめていると、

「ねえ!」

声をかけられた。
前に座っていた女子がこっちを見てる。

「これからみんなでお茶するんだけど、一緒に行かない?」

見れば男女数人のグループのようで、必須科目の時によく見かける顔ぶれだ。俺は特に誰とも親しくしていなかったから、戸惑ってしまった。
なんだろう、俺がひとりぼっちだから同情してくれてんのかな。

「…ええっと、これからバイトなんだよね」

小さな声で答えると、ガッカリしたみたいな顔をされて、少し申し訳なくなる。「誘ってくれてありがとう」と一応言っておいた。
バイトなのはほんとだけど、基本早く家に帰りたい派なんだよ、俺。
だから、バイトが済んだらすぐにアパートに向かうつもりだったんだ。

だけど…。
バイト上がりにケータイ見たら、まーくんからメールが入っていて。

『ごめん、誘われちゃったんでちょっと遅くなるわ。先に食べてて』

なんか。
急に帰りたくなくなってしまった。