挨拶されたおっさんは、口の中でもごもご「おはよう」と言ったようだった。
遠慮なくまーくんを眺め、後ろに隠れる俺の顔をじっと見てくる。まーくんの腕が無意識に俺をかばうように動いた。

「…ゴミの日」
「え」
「月曜と木曜が燃えるゴミの日だから」

見ればおっさんの手にゴミ袋。
それだけ言って階段をおりていった。

「あ!ありがとうございます」

まーくんの元気な声が響く。
けど、もうゴミを出してる暇はなく、二人で階段を駆け下りた。大学の近くとは言っても俺の通う理工学部は少し離れてるから、急がなきゃと思うのに足がふらつく。
もー、初日からこれじゃ先が思いやられる。もう少し考えてもらわないと。

まーくんが大きな手で、俺の手を握る。
俺は少し寄りかかるようにして、その手に甘えた。俯いてニマニマする。
もー、俺の口元緩みっぱなし。

ふと視線を感じて顔を上げたら、ゴミ捨て場にいたおっさんと目が合った。やっぱりじっと見てる。まーくんと手を繋いてるところを見られちゃったけど大丈夫かな。
俺はまーくんの手を強く握り返した。

「かず?」
「あのおっさ…おじさん、働いてないのかな。前も昼間いたし」
「え、会ったことあんの?」

俺は前に外廊下で出くわしたことを話した。

「そーいや、ばーちゃんが学生さん以外も住んでるって言ってたような」
「ジロジロ見られてさぁ」
「えー、かずの声、聞こえちゃったりしてないよなあ?」

俺の声?
急に心配そうなまーくんの顔に、そのイミに気がついてまた頭をひと叩き。

「バカじゃないの、あの人の部屋はひとつ向こうなんだよ」

顔が赤くなる。まーくんが「隣の人には聞こえちゃってるかも」なんて心配しだして、俺はますます恥ずかしくなった。
もー、初っ端からどーすんだよぉ。

「かずは可愛いから気をつけないとね」

そう言ってまーくんが俺を見た。
思っていたよりずっと真剣な顔でドキッとしてしまう。前もオジさん絡みで心配かけたから、俺も真面目に頷いた。

「一緒だから大丈夫だけどねっ」

まーくんの言葉が胸にしみる。
うん。俺たち一緒ならなんにも怖くないよね。
固く手を繋いで二人で走った。



こんな感じで始まった俺たちの同棲生活。
同棲って言っていいよね?
俺は二日おきくらいに自宅に帰り、そのうち三日に一度、一週間にいっぺんというペースで、徐々に居座るようになった。
計画は順調に遂行中。