ついにまーくんの一人暮らしが始まる。
日曜日の午後には、完全にあの部屋の住人だ。すでに住める状態なので、身の回りのものだけカバンに詰めて引越し完了!な予定、らしい。
なんで「らしい」かと言うと、実は今週あまりまーくんに会えてないんだ。

大学二年生になってから、まーくんはバイトを更に増やした。
マスターの喫茶店は週一になり、家庭教師を二件、そして新たに学童の仕事を入れた。
やっぱ教育学部だし、子供たちとのふれあいも経験したいみたい。バイトは資格がなくてもできるんだって。
それは構わないんだけど、学校が終わったあとなかなか会う時間が取りにくくなっちゃってさ。
だから、一人暮らしが始まってくれるのは大歓迎!夜、部屋にいれば帰ってきて、誰に気兼ねもなく会えるじゃん。俺はもう、そわそわウキウキ落ち着かない。

引越し当日の午前中は、ようやくお揃いのキーホルダーを買いに行くことになってて、俺はアパートで過ごすための部屋着をこっそりカバンに詰め込んで準備万端。
部屋着の数が少ないことを母さんに聞かれたらなんて答えようか考えていたら、まーくんが迎えに来てくれた。

「さっ、行くよ!」

差しだされた手に、顔がニヤけるのが止まらなくて下を向いた。だって絶対ツッコまれそうだもん。手を口元にあてて隠す。

「そんな顔して」

げ。やっぱバレてる。
チラリと見上げたら、まーくんだってニヤニヤしてるじゃん。人のこと言えないっての。

「このままアパートに連れ込みたくなるだろっ」

いやいや俺よかよっぽど浮かれてるよ。
とりあえずまーくんの頭をひと叩きしておいた。

今日は一日、まーくんを独り占め。
街に出てキーホルダー買って、どっかでごはん食べて、そんで部屋に帰って…えっと。
……やっぱり今日は俺、ダメだ。冷静でいられるわけがない。