鍵をそっと鍵穴に差し込む。
カチリと音がして、当たり前だけど抵抗なくドアが開いた。俺はひとつ大きく息を吸って、するりと中に入り込んだ。
もうほぼ住める状態になっている。
今にも向こうの部屋から「おかえりっ!」と笑顔のまーくんが現れそう。
「……ただいま」
小声で言ってみて、一人で照れた。
灯りも消えた静かな部屋。まーくんはいないのに、なんだか温かい気配みたいなものを感じて、俺はそわそわ靴を脱いだ。
キッチンをひと通り眺め、小さい冷蔵庫を開けてなんにも入ってない棚に買ってきたペットボトルをちんまりと並べた。
一本手に持ってリビングのちゃぶ台に腰を落ち着けた。キョロキョロ見回して増えた物を確認する。贅沢品はもちろん、余計な物もない。学生らしい質素な部屋。
お互いが居ればそれだけでいいんだ、とか言いたいところだけど、単純にお金がナイ。
まーくんがバイトしてコツコツ貯めてくれたのをたくさん使わせるわけにはいかないからね。
俺もバイトしなくちゃな。
ふと、まーくんの部屋にあったクッションが置かれているのに気がついて、手に取り顔を埋める。
……まーくんの匂いがする。
ほんとはベッドを置きたいとこだよな。
そしたら、いつもまーくんの部屋でやってたみたいに、もふもふまーくんの匂いに潜り込めるのにさあ。
シングルベッドで二人寝るのは、毎日だと狭くてツラいだろって、まーくんは言うんだ。だからってセミダブルとか買うと、部屋を占領しちゃうし、なにより一人暮らしに見えないかもだしって。俺はくっつきたい派だからシングルでもいいんだけどな。ま、布団でもくっついて寝るけど。
いずれ、居座り作戦で晴れて同居となったらベッドを買おう。そんで、一緒に……。
なんて考えてたら、なにやら身体の奥がモヤモヤしてしまってちょっと焦った。
我ながら情けない。男ってホント馬鹿だな。
女の子もそうなんだろうか。姉ちゃんに聞いたらぶっ飛ばされるだろうな…。
俺はクッション抱えてモジモジした。