ふわふわした気分のまま家に帰り、リビングのドアを開けたとたん、

「かずくん、一緒に暮らせるわよ!」

と、満面の笑みで母さんに迎えられた。
一緒に暮らす!?えっ、なになに、バレた?
心臓が跳ね上がりとっさに言葉が出てこない。おたおたする挙動不審な俺。

「お父さん、単身赴任終了だって!」

……へ。
あ、ああ、父さんの話か。
びっくりした。そう、そうだよな。
そう理解しても心臓のバクバクは簡単にはおさまらなかった。

「そそ、そっかぁ、長かったもんね」
「ねぇ!これでやっと、家族みんなで過ごせるわ。もう何年ぶりかしら…」

そこへちょうど姉ちゃんも帰って来て、母さんは姉ちゃんにも嬉しそうに報告している。
元々お父さんっ子の姉ちゃんは、母さんと手を取りあって喜んだ。
本来なら父親をウザく感じるであろう思春期に、時々しか会えなかったのもあるのか、姉ちゃんの父さん愛は小さい頃のままらしい。
ま、俺もそうっちゃそうだけどさ。俺はたまに会うと少し緊張するんだよな。

そこではたと気がついた。
あれ?これはヤバい状況なんじゃないか?
俺はまーくんと暮らすつもりで、これから親を説得しようとあれこれ悩んでいるところな訳で。
久々に「家族みんなで過ごせる」と喜んでる母さんに、一人家を出るなんて…そんな事言っていいのかな。てか、言えるのか?

ええぇ、どーしよう。
どうするんだ、俺。

ポケットに手を突っこんで、もらったアパートの鍵を握りしめ、俺はしばしボーゼンとした。
よりによってこのタイミング。
ちょっとばかり父さんを恨んでしまった。

考えがまとまらないまま、俺はまーくんに電話で父さんが単身赴任を終えて家に帰ってくる事を伝えた。そしたら、

「じゃあさ、向こうで使ってた家電とかいらなくなるんだよね?それ、譲ってもらえるとありがたいなっ」

だってさ。
つくづくそのポジティブな思考回路がうらやましいゼ。