土曜日の今日は、一般教養の公開講座があって、外部から特別講師を呼んで行われる。
今回のテーマは「映画」。有名な監督さんが講師だったし、面白そうだと申し込んでみたら、そう思うのは俺だけじゃなかったらしく高倍率の抽選になってた。
運良く当たって楽しみにしていたんだよ。
だけど……。
なんか気分はふわふわして落ち着かない。
「皆さんはどう思いますか」みたいな問いかけを監督さんがした時、「そこの君、どうですか」と俺が当てられてへどもどもした。
集中できてないのがバレていたのかなぁ。
公開講座は文系の敷地内であったので、そのまま大きなカフェテリアでまーくんと待ち合わせ。
お昼過ぎなせいか、大勢の人で賑わっている。理系の地味な学食とは大違い。
俺は隅の方にちんまり座って、談笑する人々をアイスコーヒー片手に眺めていた。
───あ。まーくんだ。
人混みの中でもすぐわかる。
キョロキョロ俺を探しているまーくんがこちらを向いた。ふふ、俺の念を感じた?
おひさまみたいな笑顔で、
「かずっ」
と手を大きく振るから、ほら、周りの注目を浴びちゃってるじゃん。文系は女子が多いし、普段どんだけモテてるんだか。
でも俺の恋人だもんね。
心の中でひそかにドヤる。
高校の頃は、文化祭でまーくんがカミングアウトしちゃって、そこそこ知られていたけど。
大学規模、なんなら社会という広い世界に出た時、まーくんはどうするんだろう。
俺だって大声で自慢したい時もあるよ、そりゃ。でもやっぱり、ちょっと怖いんだよな。
正直、あのカミングアウトを知っているうちの高校の卒業生から、じわっと広がりゃしないか心配してるくらい。
「おまたせっ。公開講座どうだった?」
「おもしろかったよ」
「そっか!チクショー、どんな話があった?」
抽選に外れてしまったのを悔やみつつ、いろいろ質問攻めしてくる。俺は半ば上の空だったとは言えず、もらった資料を見せて必死に説明した。そんで、監督に質問を当てられたことを面白おかしく話した。
「ええ?なんでかずを当てたんだろ。やっぱり目立って可愛いからかな、ヤバいな」
……なに言ってんだか。
おまえのほうがヤバいっての。
お昼ごはんを食べ、二人でアパートに向かった。
まーくんはいつも通り、迷わず俺の手を握ってくる。並んで手を繋ぎながら、なんとなく周りを気にしてしまう俺。
この頃よく思うんだ。恋人未満の頃は全然平気だったのになあ!って。