音に引かれて何の気なしにドアの方に顔をむけたら、そこには水色のランドセルをからったえりかちゃんが立っていた。
二年生になったえりかちゃんは、少し背が伸びて、相変わらずめちゃくちゃ可愛かった。
でもその可愛い顔が青ざめて見える。
「えりか?」
マスターが心配そうにカウンターの中から出てきた。えりかちゃんは「パパ…」とかすれた声で言いかけて口に手を当てた。
「きもちわるい…」
「えっ」
それからが大変だった。
急いで連れて行ったトイレで、えりかちゃんは本当に吐いてしまったらしい。そしておへその辺りが痛いと半泣きになってしまった。
お店にいたお客さんも心配するし、マスターも軽くパニクってるし、俺たちも話どころではなくなってしまって。
えりかちゃんのママ代わりのせいさん(男である。マスターのパートナー)は、まだ勤務先の美容院から戻ってない。
「医者、医者に連れていかないと!」
慌てるマスターがひっぱり出してきたかかりつけ医の診察券を見ると、今日は休診日。時間も遅く、近くの病院はもう閉まってる時間だ。マスターはアワアワとせいさんに電話しようとした。
「おなか、痛いよぉ」
えりかちゃんが苦しそうにおなかを押さえた。
「救急車呼ぶ?」
心配するまーくんがスマホを取り出す前に、俺はもう、なにも考えないままアイツに電話してしまっていた。
アイツ…本郷は電話に出てくれて、すぐに父親の病院に診てもらえるよう手配してくれた。
「虫垂炎かもしれない」から急ぐようにって。こういう時、ほんとに頼りになる。
ただし、声のトーンはもちろんめちゃくちゃ不機嫌だったけどね。
そういえば、マスターが包丁で手を切ってしまった時も、本郷がなんとかしてくれたんだったな。
痛がるえりかちゃんを呼んだタクシーに乗せて、マスターが病院に向かうことになった。
マスターが連絡を取った俺についてきて欲しいと言うので、俺も同乗しようとしたら、まーくんまで助手席にずんがと乗り込んできた。
「え、ちょっと」
「いいからいいから」
ほら、また二回繰り返す!
なにがいいんだか。
なんだかんだと言い合いながら、四人で病院に向けて出発した。