カランカランと軽やかな音とともにドアが開き、まーくんが顔を覗かせた。
「かず!」
そう呼ばれて思わず頬がゆるんじゃったから、慌てて「遅ぉい!」と不機嫌を装う。まーくんはニコニコ大股で近づいてきて、
「ごめんごめん」
と、まるでわんこにするみたいに大きな手で俺の頭をわしゃわしゃした。「よーしよし」って、俺はわんこか。
だいたい「ごめんごめん」って二回繰り返すのもさあ、本当にそう思っているんだかどうだか怪しいんだっての。
「そんな顔しないのっ」
「話があるって呼び出したの、まーくんなのに、ふつーこんなに待たせる?」
「だからごめんって。なぁに、さっきは嬉しそうな顔してなかった?」
「ししししてないし!」
そんな俺たちのやり取りを楽しそうに眺めていたマスターがコーヒーを出してくれた。
「もう6時過ぎだし、なにか食べるか?」
そう聞かれて、まーくんのおなかがぐぅと鳴る。早速、マスターお手製のお気に入りの卵サンドを頼んでる。まーくん、なんだか今日はやけにテンションが高くない?
「話って、なに」
俺は一切れもらった卵サンドを齧りながら、まーくんの顔を見つめた。まーくんの黒目がちな瞳がキラキラしてる。
わざわざ呼び出したくらいだもん、きっといい話なんだよな。
実はここ数日まーくんと会えてなかった。
同じ大学ではあるけれど、文系と理系ではキャンパスも違うし、俺の通う理工学部は少し中心から離れている。大講堂の近くに大きな学食…いや、カフェテリアがあるけど、わざわざ行くのがめんどくさくて、理系の敷地内にあるこじんまりとした学食で済ますことのほうが多い。
俺は入学式以来、健康診断だ、オリエンテーションだ、サークルの勧誘だとかなにかと忙しく、慣れるのに懸命でバタバタしていた。
まーくんはまーくんでバイトに勤しんでるし。
俺はまーくんを見つめて、気持ちがふわふわするのを止められなかった。テンション高いのは案外俺の方かも。
「あのさ、ばーちゃんがさ…」
え?まーくんのおばあちゃん?
予想外の人が出てきてちょっとびっくりする。
話の続きに聞き耳をたてていたその時、またカラン…とドアが開く音がした。