それは、ふって湧いたような話だった。
今年の春は白っぽい桜の時期が早くて、今は濃いピンクのポンポン桜が真っ盛り。
今俺は、過酷な受験戦争をなんとか乗り越えて、行きつけの喫茶店でのんびりコーヒーの香りを楽しんでいるところ。マスターの淹れるコーヒーは相変わらずおいしかったし、そろそろまーくんがバイトに来る頃なので、俺の気分は外の桜の花にも負けないくらい上々だ。
ここでは受験勉強させてもらったりして、ほんとにお世話になった。
理系学部を目指しておきながら、数学が苦手というまさに自虐的とも言える状況の俺に、仏頂面で数学を教えてくれた本郷の機嫌を、マスターのコーヒーがどれだけ持ち上げてくれたことか。感謝しかないよな。ありがたい。
正直ランクを下げようかと弱気になったりもしたんだ。けど、それもなんか悔しくて。
別に、別にさあ、まーくんと同じ大学に!ってこだわったわけじゃないよ、俺はっ。
なのに、
「どうせ、あいつが行ってるからとかいうしょーもない理由であの大学受験するんだろ」
なんて、本郷が言うんだ。
しょーもなくないし!いや違う、そーゆーんじゃないしっ。
そう言い返しても無視されてさあ。
ちょームカつく。
そりゃ、本郷はなんだかんだ言いつつも根気強く教えてくれたからありがたかったけど、ほんと可愛くない。
そして当の本人は超難関大学の医学部にかるーく合格して、そういえば卒業式以来会ってない。あのまま仏頂面のお医者さんになるんだろうなぁ。怖い怖い。
とにもかくにも、俺の合格は、家庭教師をしてくれた翔ちゃんの手厚い援護射撃と、本郷のスパルタによって勝ち取ったと言える。
そしてなにより一番俺の心を支えてくれたのがまーくんだ。いつだって俺の安全基地になってくれて、泣き言だって黙って聞いてくれた。弱音が吐ける相手なんて、まーくんしかいないもん。
まぁたまに、過剰な応援?で勉強が進まない時もあったけどさ。
その時のまーくんの熱い手の感触を思い出してしまって、俺はいつものカウンター席で一人顔を赤らめた。
早くまーくん来ないかなぁ。