力が抜けたところで、ずっとかずくんの膝の上にあって、俺たちの間でガサガサいっていた大きな袋に目がいった。
「これ、なに?」
かずくんはそう聞かれて口をむにむにした。
「えっとね」という間にもう耳が赤くなる。
そしてその袋を両手で持って、
「はい!これ、まーくんの!」
と言って俺に差し出した。
それからハッとした顔になり、「…や、相葉くんの!」と言い直した。
言い直さなくていいのに。俺の目には、小さい頃見つけた宝物を大事そうに俺の手のひらにのせてくれたかずくんの姿が見えたよ。
「俺の?なんで?」
なんかあったっけ?誕生日じゃないし。
戸惑いながら受け取って、今日がなんの日なのか懸命に思い出そうとした。
なんだ?俺たちの記念日とか、思い出さないとヤバいやつ?いや、そんなめんどくさい彼女みたいなことやらないだろ。
「三年間バスケ部お疲れ様!」
「…え」
思いがけないことを言われて、俺はポカンとかずくんを見た。
「今日の試合が終わったて、あとは引退でしょ。だからお疲れ様ってことっ」
「でも…なんでかずくんが」
「だって、相葉くんめちゃくちゃがんばってたからさ、なんかお祝いしたくなったの」
かずくんは目元を赤くして、照れくさいのか少し早口になってた。そして、「開けて!中見てよ」と俺に袋を押しつけてくる。
けど、俺はおなかの辺りにぐいぐいされる大きなプレゼントを見つめて、小さく首を振った。
「……貰えないよ」
「え。なんで?」
「だって、最後負けちゃったし」
情けない言葉がぽとりと落ちた。
簡単に優勝できるなんて思ってない。でも、かずくんが見に来てくれたんだ、絶対勝ちたかった。最高の瞬間をかずくんと共有したかった。
俺はかずくんのヒーローなんだ、そうだろ?そうでありたい。
視界がぼやける。ダメだ、こんなんじゃヒーロー失格。クビになっちゃうって。
俺は喉に詰まるなにか大きな塊を、必死にのみこもうとした。
「んひっ」
びっくりして変な声が出てしまった。
うつむいていたのに、急に両方のほっぺたを小さい手で挟まれて、無理やり顔を上げさせられたから、勝手に喉の塊が腹の底に転げ落ちた。
「何言ってんの!バカなの?」
目の前にある茶色瞳が少し怒ってる。
怒ってるのにすごく優しいのが小さい手からも伝わってくる。
「……バカってゆーな」
「だってバカだもん」
「バカじゃねぇし」
「バカでしょ。どんだけ相葉くんががんばってたと思ってんの!毎日毎日、バカみたいにバスケばっかやってさあ、バスケバカじゃん!」
そんなふうにかずくんは、まるで自分がやっていたような口ぶりで、ぶうぶう言った。