めずらしく泣くなと言われないので、僕はしばらく泣いていた。
久しぶりにたくさん泣いたから、どうやって泣き止むのか思い出せなかったんだ。けど、そのうち涙が出なくなってきた。しばらくボーっとする。
泣くのも大変だ…。
鼻水はいっぱい出るし、そのくせ鼻が詰まるから息が苦しいし、しゃくりあげ続けるとおなかまで痛くなるし。すごく疲れた…。
そう思うと、泣いて泣いて泣き続けて、熱まで出したというかずくんが、どれほど黒目のことを心配しているかわかるようで、少し怖かった。
僕が泣き止むと、お父さんは「腹がすいたら食べにおいで」と言って部屋を出ていった。
出た途端、待ちかまえていただろうお母さんに捕まって、何やら言い争ってるみたいだったが、僕はそのままボーっとし続けた。
どうしてお父さんは僕のこと、怒らなかったんだろう。
かずくんにはほんとに悪いことをしたな。
黒目のケガもひどくて、さすがによくなかったとも思っている。
けれど、僕は黒目がかずくんにしたことを許したわけじゃない。
かずくんは嫌じゃなかったかもしれないが、ほんとに自分がなにをされたかわかってるのかな。
わけもわからず、言いなりになっているんじゃないか?黒目にあれだけ頼りきってるんだもの、そうなっても不思議じゃない。
なんて言うんだったけ…センノウ?だっけ。
黒目のいいように操られて、思った通りに動かされてるのかも。
そうだとしても、僕に何ができるのか。
もうこれ以上ないくらい、あの子に嫌われてるよな……。
僕はソファに寝転がって考えた。
あの子に会いたいような会いたくないような、へんな気持ち。もし会ったらどんな顔をされるんだろう。泣かれるかな、怒るかな。
想像しただけでため息が出た。
過去は変えられない。
ふと、必死にクレヨンを拾おうとしたかずくんの姿が思い浮かんだ。
僕の足元に伸びてきた白い小さな手。
懸命に赤いクレヨンを掴んでいた。
僕は起き上がって、自分の机の引き出しを開けた。
そして、お年玉を貯めてる貯金箱をひっぱり出す。
壊れた箱は直せないけど、新しくはできる。
僕は新しいクレヨンを買うことにした。