「すき」?
犬が好き、猫のが好きとかの「すき」とは違うんだよな、きっと。ならば尚のこと、なぜそんなことを聞かれるのかわからない。こいつ、バカか?
そう思ったのが顔に出ていたのか、女の子は不満そうに僕を睨んだ。

「だって、いつも見てるし。この前かずくんのお父さん人形も直してあげてたでしょ」
 
見られていたのか。
別にちょんぎった腕をテープでくっつけただけだ。まぁ、余計なことだったけど。

「なんだよ、それだけだろ。別に好きじゃない」
「じゃあなんでそんなに構うの?」

はあ?それを言うなら黒目のほうが断然構ってるだろ。比べものにならないくらいだ。一緒にするな。

「構ってない」
「構ってるよ!ずっと見てるし」
「うるさいな!」

話にならない、こいつはバカ決定だ。
しょーもない言い合いにうんざりして、あとは無視しようと歩き出したら、その子が言ったんだ。

「でもぉ、ムダだよ?だってまさきくんには勝てないもん。やめといたがいいと思うよ」


耳鳴りがしたかと思った。
それくらい頭に血が登った。
その子がお父さんに呼ばれなかったら、突き飛ばしていたかもしれない。

好きなわけじゃないって言ってるだろ。
なんで好きだと思うんだよ。
黒目に勝てないってなんだ。
僕はただ、かずくんを自立させたいだけだ。
だってあいつが気持ち悪い目であの子を見るから。
好きだからやってるんじゃない。でもほうっておくのは後味悪いだろ。
それなのにあの女の子から見たら、僕は黒目と同類なのか。

頭の中でたくさんの言葉がぐるぐるする。
どれくらい手洗い場の前で立ちつくしていたんだろう。気がついたらお母さんがそばにいた。

「かなた。帰りましょう」

いつの間にかねえやが僕の荷物を持って、お母さんの後ろに控えていた。まだ帰りの会は終わってないはずだ。

「いいのよ。帰ってお父さんと相談しましょう」

どっと疲れを感じた。僕は黙って迎えの車に乗り込んだ。頭が重い。

「女の子っておマセさんね。気にすることないわ、そんなことばっかり考えてるんだもの」

お母さんの言葉に胸がヒヤリとする。
どこから聞いていたんだろう。全部聞かれていたのだろうか。なんてこった。ますます頭が重くなってしまった。
お母さんは軽く笑っていたけど、僕はうんざりだ。女の子ってめんどくさい生き物らしい。

そしてその時初めて、お母さんの香水の匂いが
妙に鼻について、苦手だと感じた。