「おい」

園庭のすみっこにしゃがみこんでいたかずくんの背中に声をかけた。

「ひゃ」

とたんにビクリと飛び上がり前のめりに膝をついてしまってる。どんだけビビりなんだよ。声をかけただけだろ。これじゃあ先が思いやられる。
振り向いたかずくんの茶色の目はすでにうるうるしていた。膝が砂だらけで、もう少しでかすり傷になるところだったようだ。あぶなかった、泣かれると困る。そう思うはしから、

「ふぇ…」

ええ、なんでだ。血も出てないのに泣くのかよ。
僕は焦って腕を掴むと、手洗い場に向かって走り出した。かずくんは驚いたのか泣かずにおとなしくついてきた。
僕は背の高い水道のほうへ行き、蛇口をひねってかずくんの砂だらけの足を流れる水の下に押し込んだ。白くて丸い膝からざらざらの砂が流れ落ちていく。

「ほら、血なんか出てないだろ」
「うぅ…」
「なんだよ、なんで泣くんだ」
「…あ、ぁし…」

細い声に僕はハッとした。
そうか、急ぐあまり靴も靴下も履いたままだった。しまった、びしょ濡れだ。
今にも泣きそうなかずくんに僕は焦って靴を脱がせる。泣いたら黒目が飛んできてしまう。

「泣くなって!」

あぁ泣いてしまう。焦るあまり僕は口走っていた。

「黒目が困るだろ!あいつ居残りしてんだぞ」
「…くろめ?」
「いや、あ、あいつ…年長の」

「まーくん」なんて恥ずかしくて言えるか。でもかずくんには伝わったようで、溢れかけた涙が止まり、小首をかしげて僕をじっと見てる。
なんだよ、わかりやす過ぎだろ。

「まーくん、困ってるの?」

この子の「まーくん」と呼ぶ感じもなんだか嫌だ。
「かなたくん」と呼ばれる時と何かが違う気がする。何とははっきり言えないのが、これまたイライラするんだ。