描くだけは描いた。
しかし気分は絶望的。
こんなじゃない。お母さんはもっと、髪の毛もきちんと結んでるし、いつもキレイにお化粧してるし、洋服だって…。
全く再現できない自分を呪った。

「あっ!」

急に机がガタついて、かずくんが声をあげた。
見れば、描き終わったのか飽きたのか乱暴男子が二人、ふざけてつつき合ったあげく、僕たちの机にぶつかって来たようだ。
ムッとして先生に向かって手を挙げようとした。

「……ふぇ」

ええ!かずくんがまた泣いてる?
なんで泣くんだ。机ではなくかずくんにぶつかったのか?今にも黒目が飛び込んでくるような気がして、僕は少し焦ってしまう。
かずくんの画用紙には今度はちゃんとお母さんが描いてあった。だけど、今の拍子にクレヨンがズレたのか、赤い口が顔から大きくはみ出して、鬼みたいになってしまっていた。

「泣くな!」

僕の声にかずくんがビクッとする。
目にいっぱい涙をためて、握っていた赤いクレヨンを僕に見せた。
唯一新品に近く長かった赤いクレヨンは、見事にポキリと折れていた。これでクレヨンの階段はかなり平坦になった。

「長さがそろったじゃないか」

そう言ったら、かずくんはひとつしゃくりあげた後、大きな声で泣き出した。
やめろ。黒目が来ちゃうだろ。
僕は急いで先生に声をかけ、それからかずくんにぶつかった二人の肩をど突いてやった。怒った二人に掴みかかられて、あっという間にケンカになってしまい、ガッツリ先生に怒られてしまった。
なんてこった。
しかも、その間にかずくんの姿が消えていた。
そう、黒目の教室に逃げ込んでたんだ。

さんざんな日だ。
きっと連絡帳に書かれて、お母さんに叱られるんだ。アイツらがぶつかってきたのに。

でもそんなことより、かずくんが帰りの会まで戻って来ないことがヤケに気になって、僕は落ち着かなかった。