その子はキレイな瞳をしていた。
お母さんの宝石箱に入っているコハクみたいな薄い茶色で、とてもとてもキレイだった。
「さくら組さんのおくつはこっちね」
僕の名札を見たんだろう、小さな手を蝶々のようにひらひらさせて、ピンクに塗られた靴箱を教えてくれた。その子も同じさくらの形をした名札をしているから同じクラスだ、きっと。
こういう時はお礼を言わなきゃ。あとでお母さんがうるさいからな。
僕は口を開きかけた、そこに一人の男の子が走ってきた。
「かずくん!」
そいつは僕に靴箱を教えてくれた子の手を取ると、あっという間に連れ去ってしまった。
なんだいきなり。
あの子、「かずくん」って言うのか。
あれ?ということは男の子か?
あんまりかわいいから女の子かと思った。
そこでお礼を言いそびれたことに気づく。
……あいつのせいだ。
あの目が真っ黒なやつ。あいつ白目ないのかよ。
僕は小さく舌打ちをした。
外の桜はもう散り始めていた。
「ほんごうかなたくんです。みんな仲良くしましょうね!」
今日から僕は違う幼稚園の年中組に入る。
といっても、園庭をはさんで反対側にある同じ名前の幼稚園だ。
これまでは勉強や習い事の多い、小学校ジュケンとかをするための特別なクラスに通っていた。
そこに入る時もお母さんが大騒ぎして大変だったのに、今度はこっちに行けと言う。
わけがわからない。
お父さんとお母さんがケンカをするとろくな事がないからうんざりだ。
まぁ、こっちの幼稚園はたいして勉強せずにすみそうだから、ラクでいいか。
……と、思っていたが。
なんだ、これは。クラスのやつらはバカばっかりか。自分の名前すら書けないやつもいる。
毎日歌を歌ったり、絵を描いたり、つまらない製作をしたり、遊んでばっかりじゃないか。
ラクだけど、つまらない。
退屈でしかたない。
だから、あの子を観察することにしたんだ。