「なんもしないんじゃなかったの」
「ごめん、ごめん」

ほらまた二回言ってる。俺はその口を指でぎゅうぅとつまんでやった。
「ンテテ!ご、ごめんなさい!」
別にね、俺もイヤだったわけではないよ。
でも一応そこは押さえとかないと。
うっすら指の跡がついた口元を擦りながら
「かずが気持ちよさそうだったからさぁ。最後までするのはガマンしたんだよ?」
なんてまーくんが言うから、もう一度つまもうと手を伸ばす。そんな俺をサッとかわすように、まーくんは俺を腕の中に抱き込んだ。

「少し眠れた?」
「……うん」

おかげさまで?途中でわけがわからなくなって、寝てしまったみたいだ。あんまり追い立てるんだもん。気がついたら朝だった。
心の中では(ありがとう)と思ったけど、恥ずかしいし、なんか悔しいしで、言葉にできなかった。
黙っておデコをまーくんの胸に擦りつける。

カーテンから漏れる朝の光の中で、じっと抱きしめ合う。静かで、心地よくてうっとりする。
このままもう一度眠りたいな…。

コンコンコン!

つよいノックの音に二人で飛び上がった。
「朝ごはん用意できましたって!」
姉ちゃんのヘンに高い声が響く。
ヤバい。
ぜったいバレてる。
俺はうろたえてるのに、まーくんはくふくふ笑っているから頭をひと叩きしておいた。
なのに、更に笑うってなんなのホントに!


まーくんは一限目の講義がないと言うので、俺だけがバタバタと準備して学校に行かなきゃならない。
自転車に飛び乗る俺に、パジャマ代わりのスウェット姿のまま自分の家に帰るまーくんが、のんびりと手を振っていた。
自転車を立ち漕ぎしながらチラリと振り返る。
まーくんはまだ手を振って見送っていた。
その姿に俺は自然と笑みがこぼれて、また前を向いて強くペダルを踏み込んだ。