「ママはねぇ、お母さんが死んじゃって困ってるパパを助けに来てくれたんだ。私のこと育てるの、手伝ってくれたの」
えりかちゃんは俺たちと手を繋いで小さくスキップした。
「パパとママ、とってもなかよしなのに。なんで出ていっちゃったのかな…」
最後のほうは声が消えそうになっていた。
俺はなんと言ってあげればいいのかわからなくて、チラリとまーくんを見た。
まーくんは下手っぴなウインクもどきをしてみせると、繋いでいた手を高く差し上げる。
「そりゃー」
慌てて俺も腕をあげて、小さなえりかちゃんはぴょんぴょん俺たちの間で飛び跳ねた。
「うわー!よくパパとママにやってもらってたーー!」
楽しそうな笑顔にホッとする。
でも小さいとはいえ、何度もやっていたら腕がぷるぷるしてしまった。親ってけっこう力いるんだな。
そんなこと考えていたら、なんだかまーくんと俺とえりかちゃんで三人親子連れみたいに思えてきて、ちょっとヘンな気分。
まーくんのバイト上がりまで待って一緒に帰る。自転車をたらたら漕ぎながら、マスター親子の話になった。
「マスター、えりかちゃんのママのこと何か言ってた?連絡取れてるのかなぁ」
えりかちゃんの淋しそうな様子が目に浮かぶ。
「うーん…あんまり話さないかな。でもママってマスターの幼なじみらしいよ」
なるほど。
それで赤ちゃん抱えてシングルパパになったのを見かねて手伝いに来てくれたのか。
「そのまま再婚したってこと?」
「たぶん」
「ふーん」
なんか。なんかスッキリしない。
亡くなった奥さん的にはそれはどうなんだろ。
例えば俺が死んじゃったとして、まーくんがソッコー誰かとくっついちゃったら?
ヤダって思うのかな。独りぼっちじゃなくてよかったって安心するのか。
もし逆の立場だったら……って!
まーくんの身に何かあるとか、それはダメだ!そんなのヤダよ。
「ほら!ボーッとしない!」
まーくんの声にとっさにブレーキをかける。
信号が赤だった。
「なぁんかヘンなこと、考えてるだろ」
まーくんに図星をさされて顔が熱くなる。
「んなことないし!」
ムキになって首を振ったけど、きっとバレバレ。まーくんの手が伸びてきて、また頭をポンポンされた。とっても優しい目で俺を見てる。
だから、信号が青になるとすぐにペダルを踏み込んで逃げたしだ。
涙が出そうになったのを見られたくなかったから。