時折訪れるお客さんに事情を話して帰ってもらう。
マスターの帰りを待つ間、えりかちゃんのランドセルに入っていた折り紙を三人で折った。
折り鶴なら、去年まーくんたちの受験のためたくさん折ったから慣れたもんだよ。授業中の内職でも、千羽鶴のためなら先生たちも見て見ぬふりしてくれるしね。
まーくんは風船みたいなものを作って投げっこしてた。えりかちゃんが少しだけど笑ってくれて、ほんとにまーくんが来てくれて助かった。

だいぶ経ってからマスターが一人で帰ってきた。
左手は包帯でぐるぐる巻きで痛々しかったけど、顔色はそう悪くなかった。
えりかちゃんが飛びついて泣き出し、俺たちは顔を見合わせて帰ろうとした。
「娘がお世話になりました」
西島と名乗ったマスターは、ぜひお礼にコーヒーをご馳走したいと言ってくれた。
いやいやいや、ケガ人にそんなことさせられないと断ったのに、マスターは頑固だった。
しかたないので、まーくんが手伝うと申し出る。
「あれ、きみは?さっき居たっけ?」
今更頭数が合わないことに気づくなんて、マスターはちょっと天然なのかもしれない。

作り置きのサンドイッチとコーヒーで一息つく。
えりかちゃんには夕ごはんになったサンドイッチは、ごく普通のたまごサンドだったけどとてもおいしかった。
まーくんはコーヒーのおいしさにびっくりしてた。
そして、明日からお店をどうしようかと頭を抱えるマスターに、なんとバイト申し込んだんだ。
時々、ほんとに突拍子もない行動で俺を驚かすんだよなぁ。
「たいしたバイト代、出せないよ」
「コーヒーの淹れ方学べるならタダでもいいッス」
「いやいやそんな」
俺は呆れてまーくんを見つめた。
えりかちゃんはサンドイッチをもぐもぐしながら、揉める大人たちをきょとんと見てる。
そんなえりかちゃんを見ていると、さっきの「ママは家出してる」という言葉が蘇った。

結局、バイトはほどほどの金額でまとまり、さっそく明日から手伝うことになったらしい。
「大学忙しいんじゃなかったの」
なかなか会えなかったのにと、帰り道でちょっとへそを曲げてみせる。
「夕方だけお店開けるらしいから、なんとかなるだろ。なになにかまって欲しかった?」
うれしそうに目が三日月になるから、つーんとそっぽ向いてやった。
でも肩を抱かれてそれを振り払うほどむくれてもないし、おとなしく腰に手を回した。