学級委員は教室では議事を仕切るくらいしかたいした仕事もないのだけど、なぜか修学旅行係の手伝いをすることになっていた。
その係ってのが、初めて同じクラスになった生田と映画研究部の神木だ。いや、神木は二年で一緒だったか。なにしろ班わけやらパンフ作りやら想像以上にめんどくさい係らしい。

「俺は修学旅行で彼女つくる!」

鼻息荒くこぶしを握る生田。
今日は本郷も含めて顔合わせ的に集まっていた。
せっかくだからと、神木おすすめの喫茶店に来ていて、まだ飲み物も来る前だ。
「あ〜はいはい。がんばってね」
「なんだよぉ、自分はラブラブだからって」
俺の棒読みな応援に生田が口をとがらせる。
耳が赤くなるのがわかって、俺は向かい側に座ってる本郷と神木をチラリと盗み見た。
本郷の仏頂面変わらず、神木はにこにこしてる。

「パンフレットの表紙絵は美術部の友達に頼むから大丈夫です」
「資料集めは…」
意外にテキパキ話が進んでいく。
俺はその間店内を見回していた。
レトロな雰囲気で、心地よい音楽が静かに流れている。カウンターの奥に白いシャツに茶色のエプロンをつけた、四十代くらいの男の人がコーヒーを淹れていた。他のお店の人は見あたらず、マスター一人でやっているお店みたいだ。
ミエをはってブラックコーヒーを頼んだけど、一口飲んで驚いた。
「おいしい……!」
神木が「でしょう?」と自分の手柄のようにうれしそうに答えた。
まーくんがコーヒー好きで俺も飲むようになっていた。でもやっぱり苦くて、翔ちゃんの真似してラテばっかり飲んでたんだ。
今度まーくん連れてこよう!
まーくんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

そんなこと考えてるうちに、生田、神木と帰っていき、気がついたら本郷と二人になっていた。
二杯目頼んでしまったし、帰るに帰れない状態。
二人で黙ってコーヒーを飲んだ。

「本郷って理系だったんだ」

…負けた。沈黙に耐えられなくなって口を開いた。
何を話したらいいのかわからず、思いついたことを言ってみる。三年生は理系と文系にクラスが分かれるからね。
「医学部目指してる」
「え!そうなの?」
「親が医者やってて跡を継げと言われてる」
へぇぇぇぇ!そうなんだ。
とはなったものの、そこで再び訪れる沈黙。
ふと本郷に聞きたいことを思いついた。

「ねぇねぇ、なんで学級委員長なんてやろうと思ったの?超意外なんだけど」

本郷は俺をジロリと睨んだ。