さっちゃんママの白い顔が頭に浮かぶ。
どんな声だったかは思い出せない。
さっちゃんのパパはママの王子様だよな。
お姫様と王子様はずっと一緒に、幸せに暮らしていくんじゃなかったのかよ。

幼稚園で読んだ昔話の終わりはたいがい「めでたしめでたし」だった。オオカミに食べられたり、オソロシイ魔女に魔法をかけられたり、りんご食べただけで死んでしまったりしても、最後には助けられて「めでたしめでたし」
そうやって終わるからみんなホッとしていた。
「それから二人は幸せに暮らしました」
おしまいのページは手を取りあうお姫様と王子様。

二人は死ぬまで一緒なんじゃないの?
ほんとうはそうじゃないってこと?
その先のことなんて考えたことなかった。
ただ漠然と、幸せなんだろうなって思ってた。
ほんとうはその先があったんだ…!

好きな人と一緒ならずっと幸せなんじゃないの?
離れても平気になったりするの?
それは好きじゃなくなるってこと?
運命の相手なのに??
なんで?わけがわからない。

俺は、突然真っ暗な海に放り出された。
かずくんとも?
そんなこと疑ったこともなかったのに。
かずくんかずくん
俺たちの赤い糸は繋がってるよね?
かずくんの手はどこだ…。
俺は黒い水の中、必死でかずくんのちっちゃな手を探した。

「まーくん!」

白い手が目に飛び込んできた。
我に返って隣のかずくんを見る。
さっきと変わらず、溶けかけのアイスを持ったかずくんの可愛い顔が心配そうに俺を見ている。
変わってないのに、どこか違う気がした。
この数秒でなにが変わるというのか、変わるわけないと思うのに、額に汗が滲む。

「どうしてまーくんが泣いてるの?」

そう言われて自分が泣いてると知って驚いた。
違って見えるのは涙のせいか。そうだ、きっとそうだ。慌てて涙を拭う俺のほっぺたに、かずくんの柔らかい指が触れた。

「ごめ、俺ヘンだ、ごめん」
「だいじょうぶ?」
「うん。寂しいのはかずくんなのにごめん」

かずくんの茶色の瞳が少し笑った。

「なんで謝んの?僕は平気だよ」
「へ、いき…?」

思いがけない言葉に俺は耳を疑った。