「だぁから、あんま影響うけんなって」
ぶうぶう文句を垂れるまーくんと手を繋いで渡り廊下を歩く。
すれ違った何人かの視線を感じた。
でももういいやと思う俺は、開き直ってるのかも。
そこで急にまーくんが立ち止まるからそのまま腕にぶつかってしまった。
「っと!」
「…なんで泣いてたの」
「へ、え?」
なんでって。
いつかこの手を離さなければならないかもとか想像してしまったから、とか言えないし。
たとえ頭の中だけの想像であっても、口にするのは怖い。ほんの少しでもそんな考え、まーくんの心に植えつけたくない。
だからすぐに返事ができなかった。
俺ってズルいなぁ。
心が狭いんだ。
「なになに?そんな深刻なことなわけ?」
まーくんが心配そうな顔で覗き込んでくる。大きな手が俺のほっぺたを包んだ。
「え、や、別に違うよ。菅田の健気さに心打たれたっていうか、なんか申し訳ないなって…」
「申し訳ない?」
「さ、さっき俺、由里子ちゃんに好きって言われたんだよね。だからさなんか…」
必死に誤魔化してると、疑いの眼差しだったまーくんから「あぁ」と声が漏れた。そして優しい目でうんうん頷いた。
俺はその黒目がちな瞳に見入ってしまう。
「かずはなんにも悪くないよ」
ああ、この目が好きだ。
この手も大好き。
ずっとこうしていたいな。
遠くで女子たちがきゃあきゃあ言っている声が聞こえてきて我に返る。
「ちょっ!なにすんだよこんなとこで!」
「えーなんで?照れてんのぉ?」
まーくんの手を乱暴に振りほどいて俺は大股で歩き出した。いくらみんなに知られていても、今のはダメだろ、やりすぎだろ。
「赤くなっちゃって。かずは可愛いな〜」
もおぉぉぉ!
赤いのがわかってるから余計に恥ずかしいの!
追いついてきたまーくんが肩を抱いて囁いた。
「さっきキスしたくなっちゃった」
……危ねぇっ。いろんな意味で。
もう少しで突き飛ばすとこだった。