結果的に、俺の世界はそれほど変化しなかった。
そりゃなにか言いたげな奴はそれなりに居たし、実際からかってくる奴もいないわけでなかった。
チラチラ見てくる女子達もけっこう居たし。
陰ではいろいろ言われているんだろうなぁとは思うけど。
クラスにいる間は潤くんが睨みをきかせているし、生徒会ではもうほとんど話題にもならない。
…生田以外は。
あいつの場合は、からかうつもりでというわけじゃなく、単純に知りたがりなだけなのでかえって厄介だ。あいつなりに理解しようと努力してるのがわかるから、まあいいんだけどね。
まーくんの世界はどうなのか、本人は「大丈夫っ」と笑うばっかりで。
あんまり変わってないといいな。


とりあえず今のとこ問題なのは菅田だ。
恥ずかしいっていうか気まずいというか。
せっかくギター教えてもらってたのに、なんだか顔をあわせにくくなってしまって。
だいたいまーくんが、由里子ちゃんの好きな人が俺だとか言うから余計に会いにくいんだよ。
俺は違うと思ってるけどね。
「菅田なら大丈夫じゃない?」
ぐずぐずする俺の背中を潤くんが押す。
それで俺は久しぶりに軽音部に足を運んだ。

「あれ?」

軽音部からはこれまでと違っていくつもの楽器の音が聞こえてきた。
中を覗くと男女数名が練習している。
ごく普通の光景に入口でぽかんとしてしまう。

「二宮くん」

呼ばれて振り返るとそこには由里子ちゃんが立っていた。うわ、こっちも気まずい。
おたおたする俺に「菅田くんなら教室に忘れ物取りにいってる」と教えてくれた。
「なんか軽音部、変わった?」
「そうなの。部員はみんな菅田くんのファンなのは変わらないけど、ハーレムじゃなくなった」
「そうなんだ…」
ちょっとの間沈黙が流れる。
菅田はまだ来ない。

「あの、菅田の気持ちは伝わってる、のかな。あいつスゴいがんばってたよ」

本当なら由里子ちゃん自身が受けてたはずの告白。そう思うと申し訳なくて、俺は黙っていられなかった。菅田と由里子ちゃん、意外と仲良いってか息が合ってるみたいだし、なんなら二人うまくいくといいなと思ったし。
由里子ちゃんは廊下の窓に寄り、外を眺めながら少し笑った。

「知ってます。でも私は二宮くんが好きだった。相葉先輩には敵わないって、わかってましたけど」


俺は言葉を失って、その後ろ姿を見つめていた。