由里子ちゃんと別れて、まーくんと生徒会室に向かう間、なんとなく言葉少なになる俺。
口を開くとバカな事言いそうで、歩き方までぎこちなくなってしまう。
まーくんはどう受けとったのか、「また無理しすぎてない?」と心配してくれた。
自然な動きで俺のほっぺたに触れた手の温もりに、心臓ガッツリ掴まれて耳から火が出そう。
もうもう!この手に頭擦りつけたい!
それが自然な気持ち。
でも頭のどこかで人目もちゃんと気にしてる。
そんな自分がイヤになる。


生徒会室に一歩入ったとたん、椅子にしょんぼり座る映画研究部部長の神木と目が合った。
「二宮くん」
「神っ…!」
うわわわ、なんでこんなとこにいるんだよ。
神木の心霊モドキ動画に出演することは、超極秘任務なんだからヤバいって。だって女子のフリして背中はだける役なんだもん。
「今日の予定の事だけど…」
「あああそう、そうだったっけ?ごめんごめん、教室行ってやろうぜっ」
『ぜっ』て…。我ながら怪しさ満点だけど、慌てて神木のそばに飛んでいって腕を引っぱった。
まーくんの「誰?」って顔がコワイ。

何かを察したらしい潤くんが助け舟を出してくれた。
「こいつ、俺らと同じクラスで、ニノと一緒の係やってんス。早くやんないと先生に文句言われるぞ」
「お、おお。神木、行こっ」
きょとんとする神木を引きずって生徒会室を出る。まーくんには「今日も遅くなるー」と手を振っておいた。
やっぱり潤くんはすごい。ただものじゃない。

ほんとに行ったのは教室ではなくて映画研究部の部室で、そこで神木に紙袋を渡された。
「なにこれ」
「衣装です。妹に借りたんですけど、サイズ大丈夫かな」
中から出てきた女子の制服に、わかっていてもゲンナリする。
「……やっぱ女子になんないとダメなの?」
「二宮くんは、男子の背中見てうれしいですか?」
「うれしくない」
「ですよね」って神木は至極真面目に頷くけど、実際みんなが見るのは俺の背中じゃん。
ほとんど、いや完全に詐欺だろ、これ。
俺がぶつぶつ言うと
「でも、二宮くんの背中とても綺麗です!だから全然大丈夫だと思います!」
いや、そう力説されても。
てか、なぜそこで赤くなる!?
しかもサイズ確認のために着替えようとしたら、慌てて外に出ようとするし。
いやいやいや、おかしいだろ。
そうツッコんだら、神木も自分の行動に自分で驚いて、
「そういやそうですよね。なぜか悪いような気がしちゃって…。へんだなぁ」
と、しきりに首を傾げてた。
なぜかこっちが聞きたいよ。

これじゃますます、まーくんに言えやしない。