「じゃあ二宮くんは、前に言ってた特別に好きな人と付き合ってるわけ?」

俺は喉が詰まったみたいになって口ごもる。
菅田が答えを待ってるから、やっとの事
「まぁ、ね…」
と言葉を引きずり出した。
すると菅田は「それは最高だね!」と、とんでもなく優しい笑顔を見せた。
だから胸が苦しい。
ホントは言いたかった。
菅田ならたとえ相手が男でも、同じ返事をしてくれたよね、きっと。まーくんがどれだけヒーローか語っても、ノロケても、きっと呆れずに聞いてくれる気がする。

…なのに言えない。
俺だけの問題じゃないし、まーくんを困らせたくないしとか、次々に言い訳か湧いてきて言うことができなかった。
伝えたい気持ちと知られることへの恐れとがグルグル渦巻いてめまいがしそう。
俺は菅田と別れてふらふらと階段をおりた。


1階の渡り廊下をため息つきながら歩いていると、奥の昇降口からまーくんが出てくるのが目に入った。
すごく会いたいような、今は顔を合わせたくないような。
フクザツな気持ちで立ちすくむ俺の前に突然、大きなピンクのうさぎの頭が現れた。
「うっ、わ!」
びっくりして仰け反ってしまったのが、我ながら小動物みたいで情けない。
「これ、可愛くないですか!?」
今まさに会いたくないNo.1の由里子ちゃんが、うさぎの着ぐるみを手に目の前に立っていた。

「お〜、なんだそれ」

近づいてきたまーくんが返事をした。
固まってる俺の代わりに、デカいピンクの頭を手に取ってくるりと回して見てる。
「吉高サンがこれ着るのかな?」
「私、ミスコンの宣伝係なんです。これ着て、ビラ配りしようかなと思って!」
「これなら目立つねえ。可愛くていいんじゃない?」
なんて…、なんだか楽しそうな二人。
俺は急に、誰もいない映画館で一人白っぽいスクリーンを眺めている気分になった。

「頭デカっ!」

わざと大きな声で俺はうさぎの頭をぽんぽん叩いた。うさぎの黒い目が俺をじっと見てるみたい。うさぎの目って赤いんじゃなかったっけなんて、どうでもいいことが頭をよぎった。

心がスースーした。