ジリジリジリ…
目覚まし時計がなってる…。
夏休みなのになんでだっけ。
止めて大好きな二度寝に突入しようとしたら
「まさき!今日はうさぎ当番じゃないの?」
母ちゃんにたたき起こされた。
そうだった。
朝ごはんをかき込むと、母ちゃんに人参の皮をむいたやつを貰って家をとびだした。
うちの小学校ではうさぎを飼っていて、そのお世話は4年生の仕事なんだ。
夏休みでも当番が回ってくる。
かずくんがついてきたがってたから、家まで迎えに行くと、手にプラスチックのケースを持ってぴょこんと出てきた。
にこにこなかずくんに帽子を被せてあげる。
そこでケースの中身がりんごだということに気がついた俺は、ちょっと困ってしまった。
「りんご、わざわざ買ってくれたの?」
「うん!うさぎさんはりんご好きでしょ?」
ええと。
確かに好きだけど、りんごは水分が多くておなか壊しちゃうんだよな。
「好きだけどたくさんはダメなんだ」
「え…そうなの?」
かずくんの茶色い瞳がうるうるする。
俺は両手でかずくんの手ごとケースを握って、顔を覗きこんだ。
「うさぎさんの分残すから、俺食っていい?」
しょんぼりしてたかずくんの顔が、まさに花が咲くように明るくなった。
「おれも食べる!」
少し前まで「僕」だったかずくんの、ちょっと舌っ足らずな「おれ」がくすぐったい。
2人で学校までりんごを食べながら歩く。
薄切りのりんごはまだひんやりしてて、とても甘かった。
うさぎの分をよけて最後の1枚は、俺が半分かじって残りをかずくんの口に入れてあげた。
「あーん」って言うと、かずくんは言われた通りに小さい口をあーんと開けて、まるで小鳥の赤ちゃんみたいなんだよね。
それから、ちょっとペタつく手を繋いで、うさぎ小屋まで2人で走った。