幼稚園の頃は、とっても泣き虫でどこかふわふわしてたかずくん。
小学生になってからは、それなりにやんちゃになって、同じクラスの風間くんとちっちゃなイタズラをしかけてきたりして、なかなか油断がならない。

でも相変わらず泣き虫で、やっぱり俺のあとをついてくるんだ。
幼稚園の頃俺のお嫁さんになるって言ってくれたかずくん。いろいろあってそれを忘れちゃってるかずくん。
その事が時々俺のココロをちくちくするけど。
振り返るといつでも、俺の後ろで笑ってるかずくんを見ると、それだけでもうなんか充分っていうか。たまんないよね!


5月の連休明けだったかな。
学年違っててもだいたい一緒に下校してる俺たち。なのに、その日は風間ぽんしかいなくて。
「かずくんは?」
「ニノはねぇ、転校生家まで送っていった」
はあ?なんだそれは。
不機嫌になった俺に、風間ぽんが説明する。

今日来た転校生が、隣の席のかずくんにくっついて回ったあげく、1人で帰れないと無理を言ったらしい。…だいぶ俺的な感想入りだけど。
「なんでかずくんだけで行かせたんだよ」
「だって、その子がニノご指名だったんだもん。かずくんだけでいいって」
このごろみんなはニノと呼ぶ。
かずくんと呼ぶのは俺だけだ。
俺だけの特権みたいなものなのに。

「どっち行った!?」
「え、あ、タコ公園の近くって」

俺は風間ぽんが「相葉ちゃん!」と叫んでるのを無視して駆け出した。
背中でランドセルがガタガタ鳴る。
公園の近くで2人に追いついた。
かずくんと、頭ひとつデカい女子が前を歩いていた。
声をかけようとして、ぐっと喉が詰まる。
───手を繋いでる?

え、ええ??なんだ、それ。
いやいやいや、待てまて。別にめずらしくもないだろ。遠足だって、フォークダンスだって、気にした事なかっただろ。
そう思うのに、喉は詰まったままだ。
と、かずくんが振り返るそぶりをみせたから、俺は慌てて公園の木の陰に逃げ込んだ。
「かずくん、聞いてる!?」
女の子の大きな声がして、そおっと覗いてみると、かずくんは強くひっぱられてよろけてた。
なにすんだよ、もう!
イライラしてるのは俺で、かずくんは困ったように笑ってるんだ。

かずくんがその子を送り届けて解放されるまで、木の陰に隠れて1人汗をかいてた。
ぽてぽて歩いてくるのを見て、たまらず飛び出すと、かずくんはビクッと立ちすくんだ。
「…まーくん!」
とたんに、目をうるうるさせて俺に飛びついてきた。胸が、身体がかぁっと熱くなる。
「待ってなくてごめんね」
抱きとめた俺をほっぺたを赤くしながら見上げてくるから、よしよししてあげる。
イヤな気持ちはあっという間に消えていた。

「ちょっとだけ遊んでいこっか」
「えぇ、いいの?」

いいわけない。
けど、俺が手をさしだすとかずくんは迷わず手を繋いできた。
そしてランドセルを放りだすと、2人でひとつのブランコに乗ってきゃあきゃあ笑った。