電車に乗る西畑に手を振って、俺はちょっと考える。
風間の言ったこと気になるなぁ。
別に一緒に帰るつもりはないけど、「考え」とやらを少し聞けないかなと本屋にむかって歩き出した。

この時間、思ったより本屋は混んでいた。
本郷はカウンターには居なかった。
キョロキョロ見回すと、雑誌の整理をしているところだった。近づいてゲーム雑誌を2冊手に取ると「ねぇねぇ、どっちがオススメ?」と声をかけてみた。

「……お、まえ!!」

俺に気づいた本郷が、コワイ顔で叫んだ。
ええっ、俺そんなに嫌われてる!?
周りのお客さんの反応を気にしたのか、本郷は乱暴に俺をすみっこに連れていく。

「こんな時間になにやってんだ!」
「いや、え?こんなってまだ8時前だよ…」

本郷はイライラと腕時計で時間を確認すると、俺を睨みつけた。

「8時にバイトが終わるから、おまえここで待ってろ」
「な、なんで」
「待ってろよ、いいな!」

言い捨てて去っていく後ろ姿を見つめながら口を尖らせる。
なんだよ、もう。
だから俺は女子じゃないっての!
けど、待ってないとあと後めんどくさそうだしなぁってため息をついたところで、周りの人視線がチクチク俺に刺さってることに気がついた。

ああぁ、まだ20分近くあるじゃん。


前にもこんな事なかったっけ。
ジロジロ見られるって…、あぁ、画廊の前で大野さんの絵を見てた時だ。

そうだ、あの絵どうなったんだろ。
まだ飾ってあるのかな?
ほんとに売れてたりして。


俺は本郷の視界にチョロっと入ると、「すぐ戻る」って手振り口パクで伝えて、さっさと逃げ出した。
目の端に本郷の怒った顔がかすめたけど、あいつはバイト中。追いかけては来れないもんね!
階段を駆けおりて画廊をめざした。


ほんのちょっとした思いつきだっただけ。
時間つぶしのつもりだったんだ。