その日はみんな短縮授業だったので、生徒会室でウダウダしながら、それぞれの仕事をこなしていた。
相変わらず西畑は俺の隣にちょこんと座って、俺が打ちこむパソコン画面を見ている。
と、立ち上がってお茶を入れてくると言う。
この頃すっかりお茶係になってる西畑。
みんなのマグカップを並べ始めた。

そこに開いていた窓から、突然何かが飛び込んできた。
「いてっ!」
生田の肩に当たって、さらに西畑の手をかすめたらしく、驚いた西畑は持っていたカップを落としてしまってガチャンと派手な音が響いた。
その傍に転がるボールがひとつ。

「あっ…」

慌てて破片に手を伸ばすから、俺は急いでその手を押しとどめた。
「危ないって。ケガしてない?」
「ごめんなさい…」
顔を見てびっくり。西畑の目がうるうる。
痛いのかと思って手を確認しようとしたら、
「これ、先輩の…」
なぁんだ、俺のマグカップだったのか。

後ろでは、
「くぉらぁー!!こんなとこでボール投げなんかすんじゃねぇ!」
と、小栗くんが窓から怒鳴ってた。
「ひゃー、ごめんなさい」という声が遠ざかっていく。


別に代わりのカップなんて、家にいくらでも転がってるから大丈夫だって言ってるのに、西畑は納得しない。
こいつ、意外に頑固だよね。
見かけに騙されてはいけないってところは風間といい勝負だ。

「先輩、もうすぐお誕生日ですよね。マグカップをプレゼントさせてくださいませんか?」

ええぇ、なんで知ってんの。
どうしようかと思ったけど、あんまり熱心な様子に俺は頷いてしまった。



けど。

あとから思い返せば、この時断っていればよかったのかもしれない。
マグカップが割れたってのが、そもそも不吉な予兆だったんだ。


どっちにしたって西畑のせいじゃないけどね!