「ヤバっ!翔ちゃんの課題いっこ忘れてた」
家に帰るなりまーくんが慌て出す。
翔ちゃんなら笑って許してくれるんじゃないのって笑ったら、
「今は、ってか、かずにはめちゃめちゃ甘いけど、高校の頃は怖かったんだからなっ」
へえぇ、そうなんだ。
しかたないから、俺が飲み物の準備をするため1階の台所へ降りていった。
リビングではゆうくんが一人コントローラー握ってゲームをしてた。
「飲み物もらってくよ〜」
勝手知ったるまーくんちの台所。
コップをおぼんに乗せて、冷蔵庫からお茶のペットボトルを出す。
「かずくん」
呼ばれて顔をあげると、ゆうくんがこっちを見てた。ちょっと困ったみたいな顔。
「ん?なんか行き詰まってんの?」
「かずくんはさ!」
ゲーム画面に視線を移しかけた俺は、ハッとしてゆうくんを見つめた。
「…兄ちゃんと…付き合ってるの?」
のどの奥がひゅっとなった。
ど、どうしよう?なんて答えるのが正解?
俺はペットボトル持ったまま固まった。
「こないだ玄関とこでキスしてた…よね」
うわうわうわ。
あの時見られてたんだ?
どうしようどうしよう。
バカだ俺。ちゃんと答えられないのに、スリル味わうみたいな事したりして。
ごめんねゆうくん。ほんとバカだ…。
心臓が壊れそうにバクバクした。
「なぁんだよ、ゆうは!兄ちゃん取られそうでさびしくなっちゃったのぉ?」
いつの間にか2階からおりてきてたまーくんが、ずんずんリビングに入っていく。
「じゃあ抱っこしてあげるから!よーしよしよし」
「うわっ、やめろやめろ!!」
ぎゃあああってゆうくんがコントローラーぶん投げて逃げるのを、まーくんはニコニコ追いかけ回す。ドッタンバッタン暴れる2人をボーゼンと眺めてると、ついに抵抗虚しくゆうくんは捕まってしまった。
「やめろって、う、うぜーんだよっ」
じたばたするゆうくんをガッチリ腕で押さえ込んだまーくんは、なにか耳元で囁いた。
ぴたりと静かになる2人。
そして何事も無かったみたいな顔で戻ってくると、
「かず、行くよ!早くしないと翔ちゃんが来ちゃう」
まーくんはおぼんを持って、俺を後ろからグイグイ押して2階に促す。
思わず振り返って見たゆうくんは、真っ赤な顔で俯いていた。
「ゆうくんに何て言ったの!?」
部屋に戻ってたまらず聞いたら、まーくんに強い力で抱き寄せられて口をふさがれた。