画廊は街中の、そう、初めてしょうちゃんと会った本屋の近くだった。
「智くんも来るよ」
ショーウィンドウの結構目立つ所に、その絵はあった。

「……俺、かな?」
「うわぁニノだあ!」

隣にいる風間が声をあげた。
今日はまーくんにナイショで来てる。
あとでしょうちゃんと2人きりだと知られでもしたら、めんどくさい事になりそうだから誘ったんだ。
ほんとは潤くんも誘ったんだけど、なんと!
大野さんにもう見せて貰ったって言うからさ。
なんなの、いつの間にそんなに仲良くなってんだか。モデルしたの、俺なのにさ。なんか、ちょっと妬けるんですけど。


「そうかなぁ?俺、こんな顔だっけ」


ほの暗い背景の右端で、伏せ目がちに俯いてる人物。胸の辺りで開かれた手のひらに黄色い光が灯ってる。
周りは柔らかく輝く丸い光の球が無数に飛んでいる。題名は「蛍火」


「これじゃあ、男か女かわかんないし」
「蛍の妖精なのかな?いいじゃない、すごく綺麗だよ。なんか…ニノって感じ!」
「はぁ?どこが?」

俺、こんな儚げじゃないし。
だいたい蛍って虫じゃん。虫嫌いだし。

「すぐ死んじゃいそうでコワくない?」
「失礼なやつだな」

いきなり頭をガシガシされる。
いててててっ。
「智くん」
しょうちゃんが楽しそうに話しかけた。
風間は尊敬の眼差しで挨拶してる。
なんだよ、もう、風間も潤くんも。


ほんとはさ。
ほんとはすごくキレイだって思ったんだよ。
けど、自分が描かれてるって想像以上に恥ずかしくて。
こんな事なら1人で見に来ればよかった。




「あの絵、売るの?」

帰りに寄った喫茶店で、ラテ片手にしょうちゃんが聞くと、大野さんはサンドイッチをつまみながら「んにゃ」と首をふった。
オーナーさんが飾りたいと言ったから出しただけなんだって。

「非売品だって言ってんのに、欲しいって奴がいてさ…」

1人はおっさん。
もう1人は学生服着てた。

「あんましつこいんで、50万だって言ってやったら、おっさんは逆ギレするし。学生服はなんとかするから待って欲しいとかガチっぽいし」

そろそろ引っ込めてもらおうかなぁと言いながら、もうひとつサンドイッチを食べた。
「へええぇぇ〜!熱心なファンいるんだ」
大げさに驚いてみせる俺を、大野さんがチロリと横目で見て

「おまえ目当てなんじゃない?」
「え?」
「俺のほかの絵じゃダメだって。あの絵にこだわってた」


えぇー。
そんなわけないでしょ。
呆れてるそばから風間がニヤニヤする。
「その学生って相葉ちゃんなんじゃないの?」
「はあ!?おまえバカなの?んなわけないっしょ。第一、大野さんはまーくんの顔知ってるっての」

赤くなる俺を見て、大野さんはハハッと笑った。