「えぇぇ!俺が生徒会に?」

春休み最後のカテキョだということで、またもや引っ張り出され、問題集とにらめっこしていたら。今日も自主参加してた松潤に誘われた。
「一緒にやろう?」
「そういうの、もう決まってんじゃないの。だいたいさぁ、俺向かないと思うよ」
めんどくさいの一言に尽きるんだけどな。
逃げ腰の俺に、松潤は「ニノ、パソコンとか得意でしょ」とか、至極まじめに口説いてくる。
「ほら、一緒に活動してれば目も届くし」
「へ?どういう意味?」
松潤は「あ」という顔をして、急に歯切れが悪くなった。
「…ねぇ。もしかして俺のこと、見張ってた?」
「見張るだなんて!気にかけてただけだよ」
俺はまーくんを横目でチラリと見た。
「まさかと思うけど、あいつに頼まれた?」
いやそんなと言いつつ、松潤の目が泳ぐ。
間違いない。あいつめ、何やらせてんだよ。
よくよく聞くと、昨日も本郷見かけてまーくんに知らせたらしい。
更に聞くと、今時古風にくつ箱に入れてくれた俺宛のラブレターも、幾つか抹殺した模様。
「おまえなあぁ!ふざけんなよ!ほぼ犯罪じゃねぇか」
問題集でまーくんの頭を叩く。これ、怒っていいやつだよね。そうだよね!?ほんとマジバカじゃね?
更に問題集を振り上げると、まーくんはごめんごめんって手を合わせた。
「まあまあ。雅紀は愛しのにのちゃんが心配で心配で仕方ないのよ。にのちゃん可愛いから」
俺の手から問題集を取ったしょうちゃんは、ぎゅうと俺を抱きしめた。
「翔ちゃん!」
「ま、こってり叱られな」
ううぅと情けない顔のまーくん見てると、もうなんか怒る気が失せてくる。
はあぁ。
「これで、明日の始業式でセンセに写真のこととか言われたら、マジ最悪」
げんなりして、テーブルに突っ伏した。この春休み、いろいろあり過ぎだろ。
「かずぅ」
遠慮がちに手を伸ばしてきたのを、ペちんとはたく。当分触らせないの刑だもんね。
代わりにしょうちゃんが頭をぽんぽんした。
「大丈夫だって。校長はそんなことであれこれ言ってきたりしないよ」
「??…なんでわかるの?」
「ん〜、勘?」
爽やかに笑って、しょうちゃんは松潤の問題集を覗いた。いや待てまて。勘じゃないだろ。この人ほんとに裏で操ってるんじゃ…!?
この前学校で会ったことを思い出して、頭の中がぐるぐるした。

カテキョも終了し、みんなで花見の場所にむかう。バーベキューのメンツが、川沿いの公園で準備中らしい。
俺はわざと松潤と腕を組んで歩いた。数歩遅れてまーくんがしょんぼりついてくる。見せしめのため恋人繋ぎしてみせると、まーくんは苦虫を噛み潰したよう顔をした。
「ちょっとニノ!」
松潤は困り顔で後ろを振りかえる。
「いいのこれくらい!てか、言ったら松潤も同罪なんだからね。あいつに頼まれたんだとしてもさぁ」
「だから、ごめんって…」
「嘘うそ!。力関係考えたらむしろ松潤は、被害者だよ。ね!」
ごめんねあいつバカでって見上げたら、なんか松潤真っ赤になってしまった。


川沿いの桜並木は満開で、川面に映る桜と相まって、幻想的ですらあった。
すでに始まってた花見という名の宴会にまざる。気のいいお兄さん達は、俺たち未成年にジュースを配ってくれた。しょうちゃんはあっという間にその場に馴染む。
俺ははしっこに座って、のんびりその様子を眺めた。
生徒会どうしようかなぁ。楽しそうちゃあ楽しそうなんだけど。
遠慮がちにちょっと距離置いて座ってるまーくんの背中をみつめる。松潤のそばにいた方がまーくんは安心するのかな。
宴会が盛り上がってきて、新生徒会長ってことで松潤が主役となり、酔ったお兄さんたちの真ん中で相変わらず生真面目な松潤の顔を見てたら、思わず笑ってしまった。
みんなが松潤に注目するなか、俺は強く腕を引かれ、あっという間にまーくんの足の間に連れ込まれた。
「ちょっ…」
「かずは俺んだから」
なんなの急に。後ろから抱き込まれてるから、顔がよく見えないし、おなかに回された手が強くて身動きできない。
「もー。そこはごめんなさいでしょ」
「うん、ごめん」
俺はため息をつくと、しょうがないなーってまーくんの手を撫でた。俺もたいがい甘いな。
「俺さ、運命の赤い糸信じてんの。そんで相手ががかずだってわかってる。でもさ、運命の神様だって気まぐれ起こすかもしれないだろ?」
「なんで俺だってわかるの」
「知ってるから」
「知ってる?どうして知ってるの」
「なんでか、気がついたら知ってた」
わけわかんない。けど、考えてみたら俺も頭の中はいつだってまーくんで占められてたかも。
いいなって思う女の子は何人かいたけど、結局まーくんの事ばっかりだった。そんで、そんな自分に戸惑ってたんだ。そうか、俺も知ってたのかもしれない。

んふふって笑ってまーくんに寄りかかる。
まーくんの右手が俺の顎を捉えて、俺は振り向きざまにチューされた。
「こんなとこで、だめだろっ…」
慌てる俺を全く無視して、まーくんは上唇を舐め、下唇を食む。うわわわわ!なんでおまえのチューはいっつもエロいんだよ!?
「誰もこっち見てないって」
吐息のように囁かれ、何度もはむはむされる。
「口が無くなっちゃう…」
涙目で睨むと、まーくんはやっと笑って
「無くなんないように食べるから大丈夫!」
かずのこと、全部食べたい!!とか言って、ぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。なんだよ、食べるって。怖いコワイ。実はヘンタイなの!?
「とにかく離せって。ここじゃやめろ!」
そんなだからしょうちゃんに脇が甘いって言われるんだっての。
「じゃあどこならいいの?」
「………………」
マジで運命信じていいのかな、俺。


春休みが終わる。
また新しい明日がやってくる。
ずっと一緒だったのに、まだ俺の知らないまーくんがいた。そんなまーくんが俺の手をとって、ずんずん歩いてく。俺は遅れないように、すぐ横を歩けるようになりたい。
忘れられない春休み。














おしまい!