「だーかーらー!」

ダメだ。姉ちゃんの目は腐ってる。
俺とまーくんが、イカガワしい外泊をしたと決めつけてる。んなわけないだろ!
「そういう事は、もっと大人になってからにしなさいよ、未成年」
いい加減うんざりして、部屋から追い出そうとすると
「あ、待ってよ。これ!」
白い封筒を渡された。
「なに?」
「知らないけど。あんたがイカガワしいことしてた日に、ポストに入ってた」
あーもう!くどいっての。
俺宛だけど、切手もないし。直接ポストに入れたってこと?
「ラブレターかしらねぇ??」
興味津々の姉ちゃんをとりあえず追い出して、封を切る。

「え…」

入っていたのは1枚の写真。俺とまーくんが写ってる。俺達は手を取り合い、更に俺はまーくんにしなだれかかっていて。
え?俺?俺だよな。なんだこれ。
しばらく考えてようやく思い当たる。
そうだ、こないだのファミレスで、まーくんの上着に鼻水なすりつけた時だ。
こうやって改めて見ると、なんだかアヤしい感じで、顔が赤らむのがわかる。
「なんでこんな…。誰が」
思わず独りごちて、まーくんに相談しようとケータイを握りしめたけど、そういや今日からしばらくは生徒会の引き継ぎとかで、学校に行っているのを思い出した。
どうしようどうしよう。頭の中がぐるぐるする。と、突然ケータイが鳴り出した。
「う、わっ」
驚いて後ろに飛びすさる。鳴り続けるケータイを覗くと風間俊介とある。
なぁんだとほっとして出ると、柔らかい声が耳に届いた。
「久しぶり~。たまには昼メシでも食べない?」


昼メシ時を過ぎたバーガーショップは混んでなくて、俺と風間は悠々と席を確保する。
さっきの写真、相談してみようかな。風間は小学校からの長い付き合いだけど、穏やかでいい奴だし。よくまーくんも交えて皆んなで遊んだ。こいつはまーくんがお気に入りで、「相葉ちゃん相葉ちゃん」って懐いてた。

「終業式の日、ラブレターもらったろ?」
「え?なんで知ってるの?見てた?」
「違うよ。あれね、あの子に書くよう勧めたの俺なんだ」
「はあ!?」
ちょっと待て。あの子の事好きだっていう俺の友達はお前だぞ。自分の好きな子に、ほかの奴へのラブレター書かせるって、なんだそれ!
「う~ん。まぁ、相談される立場ってのもそう悪くないしさ」
バカのつくお人好しなの、ほんとのバカなの?
「一応聞くけど、俺のために断ったとかじゃないよね?」
「いやいやいや、違うし」
だよね~って、風間はポテトをつまむ。
「お前の頭の中、相葉ちゃんでいっぱいだもんな」
思わずむせる。立て続けに出る咳で文句も言い返せない。やっぱこいつ、ほんとのバカだろ、そうに違いない。

咳き込む俺の背中をぽんぽんしながら、風間は1枚の紙を出した。
「そろそろ本題な」
差し出された紙を涙目で見ると、そこにはさっき見たばかりの例の写真が印刷されていた。
「これ!」
「あれ、知ってた?昨日新聞部の部室行ったら、ドアに挟まれてたんだ」
水飲んで落ち着いてから、まじまじと見る。
俺に届いたのと違うのは、「不純同性交遊」という文字が書き込まれていること。
俺は心底ぐったりした。なんだよ、なんなんだよ。
「実はさ、この写真撮ったの、あの子の友達なんだ」
「はあ!?」
まぁ、落ち着いてと言う風間の話はこうだ。
あのまーくんと入ったファミレスで、あの子の友達はバイトしていた。うちの学校はバイト禁止だからこっそりとだ。そこへ生徒会長の相葉さんがやって来て、女の子とイチャイチャしだした。思わず写メって、友達グループLINEに流しちゃった…
って、それ俺じゃん!女の子じゃないし、イチャイチャなんてして、たっけ?
「じゃあ何?その子がこれを?」
「いや~どうかな。第一、ニノの事女の子だと思ってたわけだしさ」
そう言って書かれた同性の文字を指さす。
「でも、実は俺だったってわかって、よくも友達を振ったわねって、仕返ししてるのかも」
「うーん。そんな子だったかなぁ」
2人で黙り込む。
相葉ちゃんに相談してみたらと言われて、はっとする。
「どうしよう。まーくんに迷惑かけちゃったらどうしよう」
俺のまーくん呼びをスルーしてくれた風間は、大丈夫だろって背中をまたぽんぽんした。

相談するとは答えたけど、その日俺はまーくんに会わなかった。
だってさ、あの写真。なんか、見せるのが超絶恥ずかしかったんだ。


なにやら雲行き怪しい春休み8日目。














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なんとまーくん出てこなかったっていう(笑)