*****

八) 「申し訳ありませんでした」


主) 「申し訳ありませんでした」



私たちは2人揃って深々と頭を下げた。



桐) 「次こそは逃がすなと言ったはずだ」


八) 「……はい。本当に申し訳ありません」


主) 「……申し訳ありません」



桐沢さんの期待と信頼を裏切ってしまった。


私はきつく奥歯を噛み締めた。



桐) 「八千草、お前としたことが、一体どうしたんだ?」


八) 「……」


桐) 「いったい何があった?」


瑛) 「……」


桐) 「○○、お前はどうなんだ?何があったか、説明できるだろ?」





主) 「……」

(なにも言えないよ…)



私は無言で、ただただ頭を下げた。



桐) 「言えないか……」


主) 「……すいません」


八) 「すべて、僕の力不足です」



桐沢さんは深いため息をついた。



桐) 「お前らには捜査から外れてもらう」


主) 「……はい」


桐) 「八千草、その意味が分かっているな?」


八) 「……はい」


(え……?どういう意味?)


桐) 「しばらく、大人しくしていろ」


八) 「はい」


主) 「はい……」


桐) 「何があったかはもう聞かん。お前ら、ちょっと頭を冷やせ」



そう言って、桐沢さんは2課を出て行った。





*****

しばらくの間、私達は2人で立ち尽くしていた。


桐沢さんへの、申し訳ない気持ち。


事件への、やるせない思い。


捜査から外された悔しさ。


そして、これ以上あの兄妹を追わなくてもいいのだという安堵。


色んな感情がごちゃ混ぜになっていた。



八) 「ちょっと……射撃場に行ってくるよ」


主) 「え……」


八) 「何かあったら呼びに来て?」


主) 「う、うん……」



穏やかな笑顔の中に張り詰めたものが見え隠れする。


私は何か言い知れない不安を感じていた。





*****

夕方、窓の外をみつめる桐沢さんがいた。


マカオに行く前に“これ以上は庇えない”と言った桐沢さん。


きっと、いや間違いなく、犯人を取り逃した私たちのことで上層部から厳しく叱責されたはず。


言い訳はなにも出来ない。


でも、話しかけずにはいられなかった。



主) 「……桐沢さん」


桐) 「……ああ、○○か」


主) 「あの……こんなことになってしまって……本当にすいませんでした」



いくら謝っても謝り足りなくて、再び頭を下げる。



桐) 「いいんだ。誰にだって失敗はあるさ」



にっこり笑ってみせる。



主) 「でも……桐沢さんが…」


桐) 「俺のことは気にするな。でも、どんな事情があったのか、いつか話してくれるな?」


主) 「……はい」


桐) 「八千草はどうしてる?」


主) 「射撃場に行きました」


桐) 「そうか……」



桐沢さんは、遠くに視線を移した。



桐) 「アイツはすぐにNYに帰る」


主) 「え?」


桐) 「この事件が終わったら、NYに帰ることになっていたんだ。NY市警とは、そういう約束だった」


主) 「そんな話、一言も聞いてなかったです…」


桐) 「そうか。あいつも、言い難かったんだろうな、お前には」


主) 「……捜査から外れるってことは…」


桐) 「ああ。八千草の捜査は終了。帰国は予定より早まるだろうな」


主) 「そんな…」


桐) 「できることなら、あいつには事件解決まで留まって欲しかったんだが……」



桐沢さんは、重苦しいため息をついて、また窓の外に視線を戻した。





*****

射撃場には、瑛希くんしかいなかった。


瑛希くんは、真剣な顔をして、黙々とターゲットを撃っている。


私が入ってきたことすら、気づいていないみたいだ。


(帰っちゃうんだ……ニューヨークに)



どこか思いつめているようにも見える。



(どうして話してくれなかったの?)

(犯人を取り逃がしたら、ニューヨークに帰ることになるって、解ってたんだよね?)



端正な横顔を見つめる。



(これ以上、近づいちゃダメだよね…)

(このままの距離でサヨナラする方が、ダメージが少なく済む……)



胸が締め付けられる。



(これ以上、好きになっちゃ、ダメ…)



今の私達の距離は、きっとコインの表と裏。


見つめ合うことも抱き合うこともできない、背中合わせの『近さ』。


限りなく近いけど、果てしなく遠い。


そんな距離。



八) 「……Shit,What the hell!」



銃声が止む。


叩きつけるように銃を置いて、ため息をつく瑛希くん。



八) 「Forget about it,Forget about her」



ボソッと呟くと、瑛希くんはまた一心不乱に銃を打ち始めた。



(瑛希くん……)



胸がぎゅうっと締め付けられる。


私は肩を叩くことも立ち去ることもできずに、がむしゃらに銃を撃つ瑛希くんを見つめていた。





*****

八) 「ふー……」


長く息を吐くと、瑛希くんはコトリと銃を置いた。


主) 「……瑛希くん」


八) 「……わ、△△ちゃん!」



心底驚いたような表情。



主) 「ごめん、驚かせた?」


八) 「ビックリしたよ!いつからいたの?」


主) 「……少し前から」


八) 「そっか」



爽やかな笑顔の瑛希くん。



さっきまでの切羽詰まった様子は見当たらなくて、ほんの少しだけホッとする。



八) 「ねぇ、△△ちゃん」



主) 「ん?」


八) 「一緒にバリに行かない?」


主) 「え……」



(バリへ?)

(何をしに行くの?……まさか、犯人を捕まえに行くんじゃないよね?)



瑛希くんが何を考えているのか、全く解らないまま、私は頷いていた。





to be continued……










捜査から外されちゃった…しょぼん


緊迫した中での2人の「青汁ネタ」は、お互いの緊張を少しでも解そうしていたんだろうな。


ボスの気持ちに応えられなかった2人…


射撃場での瑛希くんの姿はなんとも切なかったなぁ。



さぁ~いよいよ明日最終話!


再びバリ島に行ってきまーす!!