*****

(久留巳くん……)



久留巳くんのことを想うだけで、切なくてうるっとしてしまう。



(もう……ダメじゃん……私ったら……)



誰かのことを想って涙が出るなんて。


こんな気持ち、はじめてだ。



主) 「もしかして、これが……本気の恋、なのかな」



今ならLisaの気持ちも、わかるような気がする。


好きな人と離れるくらいなら、何もかも壊してしまいたくなるような。



(久留巳くんは、もう……私のこと、ただの先輩としか思ってないのかな…)



いろいろ考えると、また涙が出そうになる。


こんなんじゃいけないと、私は涙がこぼれないよう、夜空を見上げた。



(東京タワーから一緒に見た夜景、キレイだったなぁ……)



戻れるならば、あの日まで時間を戻したい、と私は思った。



(あ、でもそうしたら、今日の【青コレ】開催前になっちゃうか……)



実際に戻せるはずがないのに、私はリアルに考えていた。



主) 「そもそも、久留巳くんがいけないのよ!」

「仲良くなったと思ったら、急に他人行儀になっちゃったりして……」

「そりゃ私もちょっときつく言いすぎたけどさ」

「何もあんな手のひら返したように、冷たくしなくたって……」

「久留巳くんのバカ……」



久) 「バカなことして、ごめんね」


主) 「やだ! 久留巳くん!?」



びっくりした。



いつの間にか、久留巳くんも店の外に出てきていた。



主) 「……いつからそこにいたの?」


久) 「今出てきたところだよ」



(だったら、さっきのひとりごとは聞こえてないよね……)



私はほっと胸をなでおろした。



久) 「そっち、行っていい?」


主) 「……いいけど」



久留巳くんが、私に近づいてきた。


なんとなく、私は身構えてしまった。



久) 「……なんでそんなに固くなってるの?」


主) 「か、固くなんてなってないけど?」


久) 「さっき、なんで泣いてたの?」


主) 「な、泣いてなんかないってば!」


(やだ……見てたの?)


久) 「……本気の恋、だから?」


主) 「ちょっ……」



思わず振り上げた手を、久留巳くんがバッとつかんだ。


そのまま私の腕をぐい、と自分のほうへ引っ張ったので、私は久留巳くんの腰に腕を回す格好になってしまった。



(あっ……)



言葉を発する間もなく、久留巳くんが私のことを強く抱きしめた。


久留巳くんの胸に包まれた私は、その温かさで溶かされるように、だんだん力が抜けてきた。



久) 「○○ちゃんに注意されてからずっと抑えてきたけど、もう我慢できないよ」

「ううん、もう我慢したくないんだ」



(久留巳……くん……?)



久) 「僕は、○○ちゃんが好きだ。先輩としてじゃなく、ひとりの女の子として……」

「これまでも、これからも、そばにいたい」

「しばらくよそよそしくしちゃったけど、僕の気持ちは、東京タワーに行ったときと変わらない」

「ううん、あのときよりもっともっと好きになってる」


主) 「久留巳くん……」


久) 「【青コレ】が終わったら言おうって決めてたんだ」


主) 「……何?」



私は、久留巳くんの胸に埋められていた顔をあげた。


抱き合ったままなので、久留巳くんの顔がすぐ近くにある。



久) 「○○ちゃん……僕と付き合ってください」

「仕事仲間じゃなくて、僕は○○ちゃんの恋人になりたい」



暗がりでも、久留巳くんの大きな瞳はよく見えた。


曇りのない真っ直ぐな目で、久留巳くんは私をじっと見つめた。



主) 「……よろしくお願いします」


久) 「……いいの?」


主) 「え? 何が?」


久) 「後悔しない?」


主) 「……久留巳くんが言い出したくせに……」


久) 「だよね。なんか僕もこんなの初めてだから」

「ごめん、自分でわけわかんないこと言ってるよね」



思わず私は笑ってしまった。



主) 「そりゃまだ入社1年目だもん。社内恋愛も初めてに決まってるよね」


久) 「え、もしや○○ちゃんは初めてじゃないとか……?」


主) 「ま、まさか! 初めてじゃなかったら、もっとその……会社でもうまく振る舞えた、と思う」


久) 「だよね。僕らきっと、周りから見たら挙動不審だったんじゃないかな」

「じゃれてたかと思えば、そっけなくしてたし……」


主) 「ふふ、そうかもね」


久) 「ね、○○ちゃん……キス、していい?」


主) 「え……ここで?」


久) 「ダメ? 誰も見てないし……僕、もう我慢できないよ」


主) 「久留巳くん……」



私は、きょろきょろとあたりを見回した。



主) 「……誰もいない……ね……」



久留巳くんと目が合った。


次の瞬間、久留巳くんの唇が私の唇に触れた。




ここでスチルドキドキ




久留巳くんのキスは、優しくて、甘くて。


いつまでも、いつまでも、このままこうしていたくなる、媚薬のようなキスだった。



(久留巳くん…………好き……)



目をつぶってキスしている間に、次々といろんな思い出が浮かんできた。



(初めてハグされたとき…びっくりしたなぁ……)

(ラブホテルに入る羽目になったときは、すごくドキドキしたし……)

(久留巳くんの部屋……勘違いだったけど、勝手に責任感じちゃったりして……)

(そういえば私……初デートのときも、泣いちゃってたなぁ……)



永遠にも、一瞬にも思える、時間が過ぎていった。


久留巳くんの唇が、ゆっくりと離れた。





*****

目を開けたら、私はまた泣いていた。



久) 「え、なんで泣いてるの?」


主) 「違う、これは悲しいんじゃなくて……えっと……感激したんだと思う」


久) 「思う、ってそんな他人事みたいな……」


主) 「だって、自分でも無意識に涙が出たんだもん」


久) 「○○ちゃんって、けっこう涙もろいよね」


主) 「違うの! なんでかわからないけど、久留巳くんといると……泣いてばっかりだね」



自分で言って、自分で笑ってしまった。


久留巳くんは、そんな私をもう一度抱きしめた。



久) 「みんなの前では、今まで通り先輩と後輩っぽくしたほうがいいんだよね?」


主) 「もちろんでしょ。公私混同はよくないもん」


久) 「また我慢できなくなったら?」


主) 「えー? 会社にいるときは我慢してよ」


久) 「じゃあ、会社の外に出たら、こうやってずっとくっついててもいい?」


主) 「え……ずっと……?」


久) 「うん。できたら僕の部屋で、生まれたまんまの姿でくっつきたいなぁ♪」


主) 「なっ……」


久) 「イヤだなんて言わないでね。僕の彼女なんだからさ♪」


主) 「……もう……恥ずかしいってばーー!」



笑いながらじゃれていたら、ガタン、と背後で音がした。


私たちは、びっくりして振り向いた。



久) 「!?」

主) 「!?」


野良猫) 「ニャーア」


主) 「もう……おどかさないでよ」


久) 「びっくりした」



笑いながら、私たちはもう一度キスをした。



久) 「さ、そろそろ戻らないとね」



その時…



ガラリ!



郷) 「そこにいたのか! 主役がいなくなっちゃダメじゃないか」



絶妙なタイミングで、部長が店から出てきた。



主) 「はーい! 今行きまーす」



私たちは、笑顔で返事した。



主) 「野良猫のおかげで、バレずに済んだね」


久) 「うん」



小声で話しながら、私と久留巳くんは店の中へ戻った。





*****

桜) 「さー主役たちも戻ったことだし、もう一度乾杯しよう!」


創) 「あれ? 久留巳、お前何唇テカってんの?」



(!!!!)



久留巳くんは、赤面しながら唇を手の甲で拭いた。





*****

その後、私と久留巳くんは、メンバーの皆には内緒で交際を始めた。


今まで通り、会社では先輩・後輩として振る舞っていたが、もう切ない気持ちになることはなかった。



(みんなには秘密だけど……仕事も恋も、今が最高!)










――――ドキドキHAPPY ENDドキドキ――――