若い自衛官は仁王立ちしていた。
両手でしっかりと小さな女の子を抱えていた。
赤い、トンボの髪飾り。
青い、水色のワンピース。
小麦色の、細い右手が、だらりと垂れ下がっていた。自衛官は天を仰いだ。
空はあんなに青いというのに。
雲はぽっかり浮かんでいるというのに。
鳥は囀り、風は悠々と尾根を渡っていくというのに。
自衛官は地獄に目を落とした。
そのどこかにあるはずの、女の子の左手を捜してあげねばならなかった。
 
<小説より抜粋>