実は軽度の高所恐怖症だ。


 特に観覧車が苦手で、底がスケルトンなものはもちろん、普通のタイプの観覧車でも足がガクガクしてしまう。震えが止まらず、軽いパニック状態になる。落ちる想像をどうしても止められない。


 なぜか飛行機はまったく平気で、だからこそ現在のような移動型生活を楽しめている。


 その他の恐怖症は今のところ自覚していないのだが、これまで一回だけ、閉所に閉じ込められたことがある。2001年暮れ、アムステルダム大学に交換留学していた時代のことだ。


 当時はインターネット環境が進歩している過渡期で、街にはインターネットカフェがあり、観光客の多くはずらっと一面に並んだデスクトップ型パソコンにアクセスして、時間課金制でメールやゲームなど通信を楽しんでいた。


 私たち留学生の多くもメールやレポート作成をするときは、大学のコンピューター室に行き、ネットに接続したり、大学の共有のパソコンを使うケースがほとんどだった。


 留学中はしょっちゅうコンピューター室にいたし、ときには朝から晩までこもりっきりで課題に取り組むこともあった。 


 そんなとき、事件は起きた。

 夜になり、辺りがすっかり暗くなり、学生寮に戻ろうとエレベーターに乗り込んだら、ガタンと音を立ててそのまま動かなくなってしまったのだ。最初は何が起きたのかわからず、もう一人の乗客と一緒にボタンを押したり、様子をみてみるが、一向に動く気配がない。


 エレベーター内には、私と、背丈が190センチ以上もある(オランダ人は男女ともに世界一平均身長が高い)オランダ人男子学生だけ。

 恰幅のある外国人なら4人がちょうどいいくらいの小さいサイズのエレベーターだということもあり、たった2人でもちょっと狭苦しい。

 

 事態を理解するにつれ、大きな恐怖が私を襲い、パニック状態になりかけてしまった。

 へなへなと座り込んで弱々しくなってしまった私を励まし、彼は外部との連絡を試み、インターフォンかなにかでつながった途端、冷静に状況を説明してくれた。そんな彼をしゃがみこんで震える私はぼんやりと眺めていた。

 

 エレベーターに閉じ込められるという状況は、小説や映画、漫画では見たことがあったが、本当にそれを体験してみるのはまったく違う。空気がなくなるのではと怖い。暗闇になったらと怖い。このまま落ちていってしまったらと妄想すると怖い。この頼もしく温厚な男子学生が、万が一変な気を起こしてしまったらと思うともっともっと怖い。


 結局一時間くらいして、無事に救助が到着。エレベーターが動き私たちは外に出られた。思わず涙が出てきて、お礼の言葉とともに彼と、救助にきてくれた人たちに握手をした。

 私は役に立たなかった。せめて、彼の邪魔はしていけないと座ったまま黙って事の成り行きを見守っていたのは、よかったのか。


 いざという時に動ける人、率先して今やるべきことを見つけようとする人はなんて強いのだろう。私はこういう非常時に弱い人間だなと思った。

 それを知っていて、神様はひと気の少なくなった夜のコンピューター室に、これだけ頼もしい男子学生を残してくれたのかな、と思って感謝もずいぶんとした。


 あれから20年近く経って、私もいざという時、誰かのために動ける人になりたいと思ってきたし、そのチャンスがあれば動いてきた。

 

 思い出深いのは、ある夜の恵比寿駅西口での出来事だ。

 銅像の前で泣いている女性を見つけた。

 きっと失恋でもしたのだろう。ずっと顔をくしゃくしゃにして泣いている。

 一度は通り過ぎようと思ったけど、「自分にもできることがある」と思い直して、勇気を出して話しかけた。そうしたら泣いている女性はびっくりしたように私を見つめて、再び泣き、お礼の言葉とともに私に抱きついてきた。

 小さな愛だけど、与えることができてよかったと心底思った瞬間だ。

 

 動ける人でありたい。

 ただどうか、高所での事件だけは起きませんように。。。

 

 






 
 
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