桜井みづきは、岡山県内のとある小さな町に生まれた。
都会の暮らしからは想像できない田舎。
それが私の故郷。岡山。桃の国。
父は大工職人。母は専業主婦。
田舎だけど古くから地主だったらしく、
祖父が子供の頃は、
書生さんと呼ばれる人を家に住ませてあげていたらしい。
だから私の実家は「本家」と呼ばれ、
近所には分家もあった。
昔から継がれてきた家で、
本当なら私の弟が継ぐ予定だったけど、
私が小学校5年生の時、
弟は病気で他界した。
それから私は一人っ子。
周囲からは婿養子を取れだの何だの忠告を受け、
小学生ながらあんまり感情を表に出さない子供に育った。
「何で私が継がないといけないの?」と思いながら、
田舎の真面目な両親は、
将来のことに漠然とした心配を抱えながら私を育てた。
専業主婦の母は父のご機嫌を取り、
父は真面目な人だったけど、
まるで独裁政権のように厳しいルールがあった。
何をするにも父がいちばん。
何を買うにも父の采配ひとつ。
私は子供ながらそんな父が嫌悪感があったから、
なるべく距離を置いて過ごしていた。
母はとても優しかったけど、
本家の嫁として、
大勢いる親族の中で、
とても気を使っていた。
私は親族と関わりあうと、
必ず「婿養子をとって。」みたいな話になるので、
集まりごとにはあまり参加した記憶がない。
「そんなに家名が大事なの?」
「継ぐほどの家じゃないでしょ?」
子供の頃はずっとそう思ってた。
当時は自分の家に興味がなかったので、
何にも聞いたりしてなかったけど、
昔はJRや地元のレストランに土地を売ったこともあったらしい。
今は父が所有する小さな土地に、
アパートが建っているぐらいで、
残りは田んぼと畑と家の周りの敷地だけになった。
田舎だから時価は安いけど、
いろんなところに土地を売る前は、
かなりの広さの土地を持っていたという話。
だからどうしても、
あの家を継ぐ人間が必要だったんだろう。
父は大工職人として仕事をしながら、
自分の田んぼでお米を作っていて、
祖父も働きながら畑で野菜を作っていて、
庭の片隅に鶏を飼っていたので、
買うものといえば肉と魚だけ。
父が新車を買うときは全部キャッシュ。
田舎でのんびとした小学生時代だった。