発表会に向かう途中で、彼から「あとどのくらいで来られそう?」「今どの辺?」と見えない圧力を感じたのを覚えている。
会場に到着して深呼吸し、指定された席に着くと彼が呼んでくれた。ふと見ると隣にはお母さん。「こんにちは」と挨拶すると、彼女は微塵も笑わず下を見ながら小さく頭を下げた。頭の角度が5度下がっただけで、もはや会釈ですらなかった。きっと上演中だから集中したかったのだろう、幕間で点灯したらちゃんと挨拶しよう、とポジティブに捉えて、ドキドキする心臓を抑えつつ舞台を見ていた。

そして、幕間を迎えた。

場内が明るくなった。すぐに横を向いて「あの、(改めてご挨拶を…)」と言った時点で彼女はすぐに立ち上がり脱兎の如く離席した。「きっと、お手洗いに行ったんだよ」という彼。残念ながらその答えで納得するほど抜け作でもなく。心臓は更にドキドキと脈を打った。顔も熱くなった。


―あぁ、このドキドキは緊張なんかじゃない。怒りだ―


結局、彼女が帰ってきたのは上演再開して場内が暗くなってからだった。こんな人と最後までいるのはごめんなので、途中退席して帰路についたのだった。

その後もデートする度にお母さんの話は尽きない彼氏君だったが、エピソードがありすぎてこのcase2はいったいどこまで話をしたらいいのか。終わりが見えない。
結局「お母さんが僕のすね毛を」のエピソードに辿り着く前にオチがついてしまった。
すね毛編、みどりちゃんは何ができるの編、誰得なのか全くわからないベッドイン編などなど。様々なエピソードをいずれ特大号でお届けしようと思うので、次回に期待して欲しい。