「そなたは人間に生まれたことをどう思っているか」
「大変喜んでおります」
「では、どれくらい喜んでいるか」
「どれくらいと申しましても……」
「では、人間に生まれることはどれほど有難いか、たとえをもって教えよう」
「果てしなくひろがる大海原を思い浮かべるがよい。その底深くに、目の見えいない一匹の亀(盲亀)がいる。その亀は100年に一度、海面に顔を出す。
一方、海面には一本の丸太棒が浮いている(浮木)。その丸太の真ん中に拳くらいの大きさの穴が空いている。丸太は波のまにまに風のまにまに波間をただよっているのだ。阿難よ、この眼の見えない亀が、浮かび上がったとき浮木の穴に、ひょいと頭を入れることがあるだろうか」
一方、海面には一本の丸太棒が浮いている(浮木)。その丸太の真ん中に拳くらいの大きさの穴が空いている。丸太は波のまにまに風のまにまに波間をただよっているのだ。阿難よ、この眼の見えない亀が、浮かび上がったとき浮木の穴に、ひょいと頭を入れることがあるだろうか」
「さようなことはとても考えられません」
「絶対にないと言いきれるか」
「確かにないとはいいきれませんが、無いと言ってもよいくらい難しいことです」
「ところが阿難よ、人間に生を受けることは、この亀が、丸太ん棒の穴に首を入れることが有るよりも、難しいことなんだ。有り難いことなのだよ」