光


「なあ、賭けをしないか?」

――花を一輪、持っていた。黄色い花。君がその花をどうするのか興味があった僕は、ただ静かに次の言葉を待っていた。
君は多分、なにも考えちゃいなかった。そこにあるもの。そこにあるべきもの。そのすべてについて。

「7日後にこの花が枯れてなかったら、おれはここに戻る意味があると思うんだよ」

笑える。素直に、素直に言えばいいのに。
戻りたい場所がここにあるんだと。言えばいいのに。

「おれは、ばかだから、そういう言い方しかできないんだよ」

と、考えを読んだみたいに君は言って、その花を花瓶にさした。
その瞬間がすべてだった。

赤と、青と、黒の世界で生きていく術は君にはなくて
僕も同じ ここにはいられなかった
どこかで賢いひとが言うだろう
「想いも 記憶も ただ一握りもってあとは呑み込んでしまえば
後悔なんてものはなく すべてを許せる時がくるんだよ」


それでも僕らはばかだからさ、すべての出来事を子供みたいに呑み込んで 消化して
自分の中で大きく膨らんだそいつに対して納得のいく言葉を与えることも出来ずに
ただただ 泣くことしか出来ないんだ 罪深いから。罪深いから僕らは。
本当はここにいたくても赤と青と黒の世界を愛したくても愛せないから
静かに言うしかないんだ ごめん と。



・・・・・・・・

ごめん

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「もしもこの花が生きていたら、おれたちも生きているだろうし。
 世界も少し黄色が増えているだろうから。
 もう少しだけ、笑えるだろう」


答えなんてものはどこにもない。
僕らが感じるものがすべて。
ただそこにあるものに背を向けて 自分の中に手を伸ばす。
心臓を掴んで叫ぶ。言葉になんてなりはしないけど。

後悔もなにも終わってない。終わってないことを僕らは静かに続けているんだよ。
0から100までひとつの線の上。
続く先は見えないけれど
10歩先の未来にこの花は咲いている。
僕らの過去はそこにある。