多くのものから逃げなきゃいけない。
君は、多くのものから逃げなければいけないんだ。


たとえば痛みから。
たとえば愛から。
たとえば怒りや、胸に宿る切なさや、生きることそのもの。
向かい合わなくていい。おそらくは、向かい合わなくてもいいんだ。


ここにいることの意味とか。
昨日話した夢の内容とか。
明日向かう場所。
続いていく道や、10年後の自分への想像。
すべてが糧だと思っていた、すべてが期待であった、心そのものを裏切ってもいい。



なにもなくていい。
なにも、ひとつもなくていい。
ひとつも、すべてなくていい。
すべてなくなってしまえばいい。



苦しくも悲しくも、痛みも怒りも喜びもなくていい。
思っていたよりもずっと人を縛るものだったから、
君が少しずつ命を削っているのを見るようだったから、
知らないうちに僕は涙を流していたよ。